『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』最速レビュー!喪失感を克服する“ドキュメント”のような映画に集ったキャスト&スタッフが想いを吐露
「ライアンが私を信じてこのシーンを演じさせてくれたおかげで、感情をとりもどすことができたのです」(ライト)
ワカンダの若き国王の死から1年後、残されたシュリ、シュリの母でワカンダの女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)、そしてティ・チャラの恋人だったナキア(ニョンゴ)や幼馴染のオコエ(ダナイ・グリラ)、ジャバリ族のリーダー、エムバク(ウィンストン・デューク)らは、ワカンダを侵略しようとする勢力と再び戦うことになる。海帝国タロカンの王ネイモアと対峙するため、シュリをはじめとしたワカンダの勇士たちが力を合わせる。クーグラー監督は、「母ラモンダと娘シュリの関係を探求することに集中しました。前作では、主人公と敵役の両方が、父親を亡くしても前に進まなければならないという、父子の関係性が描かれていました。この作品では、“母性”をテーマにした物語になっています。この映画をファミリー・ドラマのように観ていただけたら、それは私とジョー(・ロバート・コール)が意図したとおりです」と説明する。
恋人のティ・チャラを失ったナキアを演じたニョンゴは、理性的に悲しみと向き合うナキアと比べ、自分のほうがずっと混沌としていた、と思い返す。ニョンゴは、ティ・チャラにとって、ワカンダにとってのナキアについてクーグラー監督と話し合った際に、視界が開けたような気分だったと認める。「ライアンは、ナキアはオアシスのような存在だったと言いました。ティ・チャラにとって彼女は、嵐の中の一瞬の静寂。彼女は人生の中心となる愛を失いましたが、オアシスを支える役割を担うようになります。ナキアは、シュリよりもティ・チャラについて詳しく、心の中も熟知していました。シュリにとってのティ・チャラの位置を埋めようとします。ナキアはブラックパンサーに愛された存在として、その記憶が彼女の安定した強さとなり、彼女たちはきっと大丈夫だろうと思わせてくれます。それこそがティ・チャラが残してくれた叡智なのです」と、ニョンゴは語っている。
同様に、ライトはチャドウィック・ボーズマンの死後1年経って撮影に戻り、シュリを深く理解することで喪失感と向き合うことができたと言う。ライトは言葉を選びながら、シュリを演じることの意味を自分自身に問いかけた。「1年間あまり表に出すことを避けていた感情を解き放ってくれたのが、この映画の脚本と仲間たちと、隣に座っている驚異的な監督でした。私は長い間、感情の中でも、“怒り”を表現することができませんでした。映画の撮影でワカンダの世界に戻り、セットは神聖な喜びの空間でした。シュリが感情を露わにするシーンで私がやっていたことは、2020年8月以降に私たちから奪われたものを点で繋いでいくことでした。シュリが表現する怒りは、彼女の潜在化にあるもので、抑えているものを壊すなにかが必要でした。なので、脚本に書かれているだけでなく、私の内面で起きていたことでもあります。そして、その感情を受け止める器として、自分自身を受け入れることができました。ライアンが私を信じてこのシーンを演じさせてくれたおかげで、感情をとりもどすことができたのです」。
観るもの誰もが感傷的にならざるを得ない前半、そして映画後半の見どころは、壮大な水中のシーン。この撮影のために、キャストは1年間水中訓練を受けたという。まずは水中で快適に過ごせる訓練、それから潜水訓練とフリーダイビングを習得。特にタロカンの戦士たちは水中で生まれ育ったかのように自由自在に動けることが求められたそうで、武将アッテマを演じたアレックス・リヴィナリは、「最初は10秒しかできなかったのに、撮影時には6分間息を止めて泳げるようになりました」と語っている。シュリ役のライトが、演じることで感情を露わにすることを再び取り戻したと語っているが、水中を自在に動く訓練は、肉体が浮遊する感覚を使い感情を高めていく効果もあったのかもしれない。
王を失い悲しみに暮れていたワカンダが、水中帝国との戦いを経て再び浮かび上がる物語。チャドウィック・ボーズマンを失った『ブラックパンサー』チームは、自らの身を挺してレジリエンスを世界に示そうとしている。
取材・文/平井伊都子