『ブラックパンサー』『TENET テネット』『クリード チャンプを継ぐ男』…気鋭の作曲家、ルドウィグ・ゴランソンを知っているか?
デジタルにアフリカン・パーカッションを融合させた強力なサウンドトラック
ゴランソンが作りだすスコアの魅力は、デジタルを駆使しつつ、柔軟にトーンを変えることにある。例えば、『フルートベール駅で』では、デジタルなサンプリング音にシンプルなギターを重ねて、悲劇へと向かう主人公の日常を素朴かつ不穏に彩る。一方で、クリストファー・ノーラン監督と組んだ『TENET テネット』(20)は、やはりデジタルを基調としながらも、シンセサイザーのリフやギターのノイズ、大音量のベース音を組み込んだ、オリジナリティにあふれるサウンドを響かせた。『ブラックパンサー』では、舞台となるアフリカに飛び、かの地の独特のビートを習得。得意のデジタル音にリズミカルなアフリカン・パーカシッションを交えた、強力なサウンドトラックを生みだす。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の音楽も同様だが、前作以上にスコアはドラマチックなものとなった。ヒーローであり守護者でもあるブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)を失ったワカンダ王国の不穏はダークな旋律によって表現されるが、一方にはワカンダの民の活力をビートで強調したアフリカン・ミュージックも確認できる。ワカンダの王女シュリ(レティーシャ・ライト)が海底の帝国で、その平和で美しい景色を目撃する場面では、一転して心和むオーガニックなサウンドを展開させるなど、変幻自在だ。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』ではリアーナをプロデュース
前作ではケンドリック・ラマーによる主題歌が脚光を浴びたが、今回はリアーナが「リフト・ミー・アップ」を提供。最初のエンドクレジットでフィーチャーされるこのナンバーは、もちろんゴランソンのプロデュースによるもので、前作で主演を務めた故チャドウィック・ボーズマンに捧げられている。緊張感にあふれたドラマのあとに流れてくる、このチルアウトを促すようなナンバーは、映画を観た観客の心に染み入るような感慨を与えるに違いない。
いずれにしても、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の音楽は、年明けに開催されるグラミー賞やアカデミー賞で無視できないものとなるだろう。現在38歳のゴランソンはハリウッドの映画音楽作家では若手の部類に属するが、映画音楽の定番であるシンフォニーの枠に囚われることなく、斬新な感性でハリウッド大作にスコアを提供するその手腕は、今後ますます注目を集めるに違いない。
文/有馬楽