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「自分はいったい何者なのか?」『ある男』妻夫木聡と窪田正孝が“別の誰かになる”俳優業への想いを語る

インタビュー

「自分はいったい何者なのか?」『ある男』妻夫木聡と窪田正孝が“別の誰かになる”俳優業への想いを語る

「答えがないからこそ、やりがいを感じられるのかもしれません」(窪田)

――窪田さんは、どうですか?

窪田「役に入り込みすぎてしまう経験は、たしかに僕にもありましたね。俳優って、感情を吐き出す仕事なので。感情は本来自分だけのものはずなのに、人のために自分の感情を吐き出している部分もあって…。仕事終わって家に帰っても、自分が喜んでいるのか、うれしいのか、疲れているのかさえ、よくわからないというか。中身がすっからかんなんですよね。それを何度も繰り返していると、やっぱりちょっと精神的に来るものがある。役に入り込むことが正しいことなのか、あくまでもお芝居として一線を引くことが正しいことなのか。100人いたら100通りあるし。答えはないんですよね。でも、答えがないからこそ、やりがいを感じられるお仕事なのかもしれません」

城戸は里枝(安藤サクラ)から依頼を受け、死亡した夫「谷口大祐」の過去を調べることになる
城戸は里枝(安藤サクラ)から依頼を受け、死亡した夫「谷口大祐」の過去を調べることになる[c]2022「ある男」製作委員会

――なるほど。俳優という仕事に愛を感じる瞬間はありますか?

妻夫木「愛か…」

窪田「いきなりでかいテーマが来ましたね(笑)」

妻夫木「でも、愛がないとこの仕事はやっていけない気がしますけどね。俳優って、ただの仕事だと思って捉えるにはかなりしんどい職業なので。愛があるからこそ、本気で取り組める自分がいるというか。やっていること自体は楽しいものじゃない場合のほうが多いけど、愛があるから続けられているんじゃないかなあ」

窪田「それこそ僕は、撮影が一段落して役者の仕事から離れている時に、ふと『演じたい』と感じたり、映画を観ながら『やっぱりあっち側に行きたい!』と思わされたりする瞬間が、この仕事に愛を感じる時なのかもしれない。でも、改めて聞かれると難しいですね(笑)」

妻夫木「難しいよね。だって、恋に落ちてしまう瞬間って、別に理屈とかじゃないからさ。結局、ずっと恋をしているような状態と似ているんですよね。この仕事のなにが好きなのか、自分にもはっきりとはわからないけど、『やっぱり自分にはこれしかないな』と思ってるし。ずっと一緒にいる存在なんだろうなと、捉えているところはありますよね。もはや職業病と言ったらいいのか、日常のなかでなにをやるにしたって、どうしてもよぎっちゃうんですよ。街を歩いていてちょっと変わった人と遭遇したら、『ラッキー!』と思ってしまうとか(笑)。ボクシングをやっていても、英語を勉強していても、なにかにつながるんじゃないかって。それこそ自分の祖母が亡くなった時ですら、泣いている自分をどこか俯瞰で見ながら、『ああ、俺はこういう時、こういうふうに悲しむんだな』って思っちゃったりして、そういう自分が嫌になる時もある。でもまあ、それも含めて自分なので(笑)。そういう自分さえ肯定してたりするし、そう思えるのもこの仕事に愛があるからじゃないかな」

死亡した「谷口大祐」は名前も過去も異なる別人であったことが判明
死亡した「谷口大祐」は名前も過去も異なる別人であったことが判明[c]2022「ある男」製作委員会

――窪田さんはいまの妻夫木さんのお話を聞いていて、どう感じました?

窪田「なんだろうなあ…。役者の仕事って、役によって根幹があったり、受け継がれていく歴史のあるものでもあったりすると思うから。現世で生きていくなかで自分になにができるのかとか、この人とならなにかすごいことができるかもしれないとか、いろいろ考えますよね。お芝居をすること自体が、人間を表現することでもあって。いま妻夫木さんがおっしゃったように、日常を生きていくなかで、どこか自分のことを客観視して見ていないとダメな仕事でもある。感情を伝える仕事だからこそ、常に自分の感情も俯瞰して見ていないと、いざ芝居をするときにもうまくコントロールもできないし。いやあ、本当に難しい仕事ですよね…」


――そんなお二人が感じる俳優の仕事の醍醐味についても伺いたいです。

妻夫木「役者をやってなかったら、きっと出会えていなかっただろうと思える自分と、スクリーンや画面を通じて出会ったりすることはありますね。自分でも『うわ、なんだこの表情!』って思うこともある。俳優の仕事が僕自身の生き方にも、なにかしら作用をもたらしているはずで。もし僕がサラリーマンだったらこういう考え方にはいたってないだろうなあとも思うし、まさに自分のことを主観で見る時もあれば、俯瞰で見る時もある。そういういろんな視点で物事を見られるようになったのは、役者ならではなんじゃないかなあ。でもその一方で、さっきも言ったように無意識にどこかで役につなげようとしてしまうところがあるから、本当の意味ですべての物事を純粋に楽しめているのかなって考えると、正直わからない。日常の中で起こる偶然でさえも、まるで必然であるかのように感じてしまうから、かなり不自由な部分もあるんですけどね」

調査を進めるうちに城戸は、自分自身が何者なのかというアイデンティティの揺らぎに直面していく
調査を進めるうちに城戸は、自分自身が何者なのかというアイデンティティの揺らぎに直面していく[c]2022「ある男」製作委員会

――たしかに、逆もまた然りで、現実で体験するのは初めてのはずなのに、お芝居で先に疑似体験しているから、新鮮に感じられないなんてこともあるとは聞きますね。窪田さんは?

窪田「カメラマンさんや、スタイリストさん、ヘアメイクさん、美術さんなど、映画や舞台、音楽の現場にかかわっている、第一線で活躍している人たちと出会えて、一緒になにかを作り上げることができるのが、この仕事の醍醐味ですかね。一緒にモノづくりをするなかで、ふと、その人のなかにあるちょっとした狂気みたいなものに触れてしまう時があって、たまらなく興奮するんです(笑)。『うわ、この人の脳みその中身、どうなってるかわかんないんだけど!』みたいにすごく刺激を受けるし、鍼(はり)を刺してもらっている時と同じような感覚なんですよね。イタ気持ちいいというのかな。あとは、たとえば妻夫木さんが新しい監督とタッグを組んだ作品を観たりした時に『その監督と俺もやりたい!』って思ったりとか。誰かと出会って、そこからどんどん枝分かれしていって、またそれが全部つながっていく感じが僕はおもしろいんですよね」

【写真を見る】妻夫木聡と窪田正孝が“俳優業への怖さと愛”を語る
【写真を見る】妻夫木聡と窪田正孝が“俳優業への怖さと愛”を語る撮影/YOU ISHII

――いまの窪田さんのお話は、妻夫木さんが「大人エレベーター」のTVCMを通じて「格好いい大人って?」と長年探求されている姿とも、どこかで通じているような気がしました。

妻夫木「本当にあのCMでは勉強させてもらってます。本当に魅力的な人って、自分のなにが格好いいのかわからずにやっているからこそ、魅力的だったりするんですよね。僕が思う天才って、“努力に鈍感な人”な気がします。自分では努力してることにも気づいていない」

――まさに、お二人もそういうタイプだと思います!

妻夫木「窪田くんはそうだと思うけど、僕は頑張るしかないですよ。いたって凡人なんで(笑)」

窪田「いやいや、僕こそ凡人ですよ(笑)」

取材・文/渡邊玲子

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