鬼気迫る演技に圧倒『母性』、現代的で共感できる『グリーン・ナイト』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、湊かなえの傑作を戸田恵梨香&永野芽郁の共演で描く、ある死亡事件を巡るミステリー、14世紀の作者不明の叙事詩を、デヴィッド・ロウリーとA24、J・R・R・トールキンのタッグで描くファンタジー、絶大な人気を誇った兄弟グループ「ビー・ジーズ」の軌跡を、豪華ゲストを交えながら辿っていくドキュメンタリーの、心揺さぶられる3本。
人間のどうにもならない心理に対する興味、面白味を掻き立てられる…『母性』(公開中)
女子高生が自宅の庭で死亡する。発見したのは母親。はたして事故か自殺か、はたまた――。その悲劇に至るまでを、母の視点、娘の視点からそれぞれ辿っていく。イヤミスの女王、湊かなえの同名小説を、『あちらにいる鬼』が公開中、さらに『月の満ち欠け』(12月2日公開)の公開も控える監督、廣木隆一が映画化。
理想的な母親(大地真央)に愛されて育ったルミ子(戸田恵梨香)は、その母の愛にいつまでも包まれたいからか(母に褒められウット~リする表情が怖い!)、娘の清佳(永野芽郁)を愛せない。母ルミ子に愛されようと振る舞う、清佳の健気さがせつない!やがて夫の実家に入ることになり、義母という存在が加わることで、より複雑さを増す各々の感情の綾が、さらにやるせないことに。
個人的には“母性の有無”以前に、ルミ子の心模様がどうにも解せず、だからこそ人間のどうにもならない心理に対する興味、面白味を掻き立てられる。同じ出来事を振り返っているのに、ルミ子と清佳の記憶の中の温度差、心象の違いに心がフと寒くなる。その“「羅生門」形式”による発見と驚きの連打、画づくりもさることながら、女優たちの鮮やか且つ鬼気迫る演技に圧倒される。最終盤でガツッともう一歩欲しいところだが、それは贅沢な望みかな。(映画ライター・折田千鶴子)
内面の弱さがより共感できるキャラクターに感じられる…『グリーン・ナイト』(公開中)
ヨーロッパ史好き、ファンタジー好きにオススメしたい『グリーン・ナイト』。その理由は原作が14世紀頃に詠まれた作者不明の英雄譚「サー・ガウェインと緑の騎士」の映像化作品だから。「指輪物語」のJ・R・R・トールキンが現代英語に訳したことでも有名で、「アーサー王伝説」に登場する円卓の騎士の一人、ガウェイン(デヴ・パテル)がキャメロット城に現れた全身の緑の大男“緑の騎士”との“首切りゲーム”に臨んだことから、様々な苦難や試練が待ち受ける旅に出ることになる。
原作でのガウェインはアーサー王からの信頼も篤い高潔な騎士だったが、本作ではまだまだ未熟な騎士見習いとして登場する。まだ何者でもないガウェインがダラダラとうだつが上がらない日々を過ごす序盤、旅立ったのはいいものの、次から次へと巻き起こるトラブルに慌てふためく様子は、むしろ現代的というか、露見する内面の弱さがより共感できるキャラクターに感じられる。このほか、騎士たちが集う円卓の様子や木が擬人化したような緑の騎士、巨人の群れ、しゃべるキツネといったファンタジー作品らしい要素にもあふれ、ビジュアル面でも楽しませてくれる。(ライター・平尾嘉浩)
人気ミュージシャンの光と影に心が揺さぶられる…『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』(公開中)
1970年代の終盤、空前のディスコブームを巻き起こした映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(04)。いまも多くの人のテンションを上げる「ステイン・アライブ」をはじめ、同映画のサウンドトラックで知られるビー・ジーズ。彼らの“歴史”を克明に、そして鮮烈に伝えるこのドキュメンタリーは、人気ミュージシャンの光と影に心が揺さぶられる。
ビー・ジーズは3人兄弟のバンド。名曲の数々が流れるたびに兄弟ならではの美しいハーモニーに改めて感動してしまう。長男バリーの有名な“高音”は、その秘密も明かされるし、その歌声を「トランペットのよう」と絶賛するジャスティン・ティンバーレイクら大物ミュージシャンたちの証言も貴重。一方で驚くべき金の使い方、肉親ゆえの兄弟間の葛藤に、いまは亡き2人のメンバーの生前のインタビュー、ソロアーティストだった末弟アンディ・ギブの悲劇、そして『サタデー・ナイト・フィーバー』直後の目を疑う状況など、ドラマチックなパートが時系列にきれいに紹介され、ファンはもちろん、ビー・ジーズに詳しくない人にも誠実で観やすい作りになっている。(映画ライター・斉藤博昭)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼