戸田恵梨香&永野芽郁、『母性』難役を乗り越えた特別な絆。語り合う俳優としての現在地
「SPECが、脚本との向き合い方について考えるきっかけになりました」(戸田)、「いま、“合う、合わない”を探しているところなのかなと」(永野)
――本作では、母と娘、それぞれの視点で過去を振り返ることで、お互いの気持ちのすれ違いや生じる誤解、彼女たちの不穏な関係性までが見えてきます。「どうしてわかり合えないんだろう」と見ていてもせつなくなるような母娘でしたが、お2人は人間関係を築くうえで大切にしていることはありますか?
戸田「私は、言葉足らずにならないように気をつけたいなと思っています。でもこれまでの人生において、『言葉が足りすぎて、相手にしんどい想いをさせている可能性もあるな』と感じることもありました。映画やドラマなどは、物語についてそれぞれの感じ方が違うからこそおもしろいものだと思いますが、人に対しては、誤解が生まれた時にきちんとそれを埋めるように努力することだったり、きちんと向き合うことが大事だなと実感しています」
永野「私も、言葉は大切にしないといけないなと思っています。自分が発する言葉も大切にしたいですし、私は誰かになにかを言われた時に、できる限りポジティブに変換して、自分自身を守ろうとしています。関係を育むうえで生まれた誤解や、傷つけてしまったことがあれば、きちんと向き合っていきたいなと思いながら、過ごしています」
――こうしてお話を伺っていても、戸田さんと永野さんがお互いに信頼し合っていることがひしひしと伝わってきてとてもステキだなと思います。戸田さんが永野さんくらいの年齢のころは、役者というお仕事にどのように向き合っていましたか?
戸田「本作の撮影当時、芽郁ちゃんは22歳だったんだよね。22歳というと、私はドラマ『SPEC』(〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿)に出演していたころです。当時はとにかく役作りや、役者としての幅を広げることに無我夢中になっていました。『成長しなければ』と必死になって、その想いにしがみついているような感じ。芽郁ちゃんのような心の余裕がなかったかもしれないなと思います」
――悩みの時期だったのですね。
戸田「悩んで、切羽詰まっている感じでした。でもそこで加瀬亮さんと出会い、真摯に作品に向き合う姿を見て、脚本との向き合い方について改めて考えるきっかけにもなりました。また『SPEC』に出演したことで、クセの強いキャラクターのオファーがものすごく増えたんです。すると自分のお芝居の長所や自分の好きな作風も見えてきつつ、一方で『短所としている部分を克服して、演じられる幅も広げて、深めていかなければ』と感じていました。その悩みが少しずつ解消できてきたなと思えたのは、本当につい最近のことです。やっぱり人それぞれに“合う、合わない”はあるし、無理にできることを広げる必要もないのかなって。人生にはそれぞれ自分の役割、役目のようなものがあるんだなとだんだん理解できるようになって、私も無理する必要はないのかなと思えるようになりました。ただ時には、本作のようにチャレンジすることも大事。そうやってきちんと考えながら、一つ一つの作品に向き合っていきたいです」
――永野さんは近年、やさぐれた女性を演じた『マイ・ブロークン・マリコ』や本作など、チャレンジングな作品が続いています。いま作品選びで大切にしていることは、どのようなことでしょうか。
永野「私はいま、“合う、合わない”を探しているところなのかなと感じています。自分が好きなこと、楽しいこと、大変だけれどやった時に達成感を味わえるものなど、いろいろなものに挑戦してみて、それに対して自分がどう感じるのかを探っているところなのかなと。私は本作で戸田さんと共演したことで、本当にいろいろなことを学ぶことができました。戸田さんは誰よりも脚本と向き合っている時間が長くて、自分の役以外のことについてもものすごく深く考えられて。脚本から、いろいろなヒントを得ているんです。初めて現場でお会いした時に、『そんなに脚本を読み込んできているんだ!』と驚きました。例えばセリフがないシーンでも、なぜそのシーンがあるのか、このシーンにはなにが込められているのかをものすごく考えていらっしゃる。演じるうえでは、誰もが“脚本を読む”というスタート地点は同じ。でも時間をかけて脚本に向き合うことで、こんなにも役への理解が変わるんだと強く感じました。2作品の撮影で戸田さんとご一緒できたことは、私にとって本当に貴重な経験になりました」
取材・文/成田おり枝