『ザリガニの鳴くところ』オリヴィア・ニューマン監督が明かす、キャスティング秘話とロケーションに込めた想い
ハリウッドを代表する女優リース・ウィザースプーンが原作小説に惚れ込み、自身の製作会社「ハロー・サンシャイン」を通じて映像化権を獲得して、自らプロデューサーを務めた映画『ザリガニが鳴くところ』(公開中)。1969年、アメリカ、ノースカロライナ州の湿地で、裕福な家の出で、人望ある若者チェイスの死体が発見され、町の人々から「湿地の少女」と蔑まれる女性が容疑者として逮捕されるミステリーである。
ヒロインのカイア役に抜擢されたニュースター、デイジー・エドガー=ジョーンズの初々しい存在感と、大小の川が迷路のように張りめぐらされた湿地帯の自然豊かな水辺の風景が一体化し、6歳で家族に捨てられ、沼地でサバイブせざるを得なくなった少女の数奇な運命が法廷で徐々に明かされていく。果たして彼女は殺人犯なのか――その展開に息がつけない。
原作を手掛けたのが動物学者のディーリア・オーエンズであるだけに、自然描写の説得力が強い作品だが、これを見事に映像化しているのが、長編映画2作目となるオリヴィア・ニューマン監督。原作の世界観についての考え方、そしてキャスティングや撮影のこだわりを聞いた。
「デイジー・エドガー=ジョーンズはなんてことはない身のこなしや息の吐き方がものすごく繊細」
全世界で1500万部のベストセラーとなった原作の魅力について、ニューマン監督は「『ザリガニが鳴くところ』は階級についての物語です。文明から距離を置いて湿地で暮らしてきた人々には様々なサバイブの伝説があり、カイアはその歴史の文脈で語られる存在です。定職に就く街の人々には、電気もガスも通らない場所で暮らすカイアは稀有な存在なんです」と語る。
貝や魚など自然の恵みを収穫し、その収入で暮らすカイアへの畏怖。町の人々たちから向けられる眼差しに気づいている彼女は、湿地で静かに暮らしているが、その美貌と存在にやがて2人の男性が引き寄せられていく。カイア役のエドガー=ジョーンズはイギリス出身で、カニバリズムを題材にしたサスペンスホラー『フレッシュ』(22)での怪演も記憶に新しい。彼女を選んだ理由とは?
「BBCのテレビシリーズ『ふつうの人々』を見て、キャラクターに深みをもたらすことができる女優だなって思ったのが最初で、オーディションに来てもらおうとこちらから声を掛けました。カイアという女性は非常に繊細で、内向的で、不器用である。と同時に独りで生きていく力強さもしっかり表現しなくてはいけない。コロナ禍だったのでオーディションはZOOMでやったんですが、デイジーはワンテイクワンカットの長回しでさきほどの両面をとても見事に演じてくれて、見ていて涙が浮かんじゃったんです。なので全員一致で、1回のオーディションで、彼女を起用しようということになりました。実際、撮影に入ってみたら、彼女はテイクごとにちょっとずつ演技を変えていくんです。ドラマチックでない静かなシーンでもすごい演技を見せてくれました。そして湿地で暮らすカイアは、ボートの操縦が上手なうえにダイビングもできるのですが、デイジーはほとんどスタントなしに演じています」。
特に印象に残っているシーンを聞くと、兄の友人であったテイトと仲を深めていく時の演技だったという。
「最初は友達であったのが、どんどんテイトの存在がカイアの中で大きくなっていって、お互いに恋愛感情が芽生えていくわけですけど、この映画、2人の決定的瞬間は描いていません。この瞬間から恋人になりましたという場面は避けて、少しずつ恋愛感情が芽生えていく変化をデイジーには演じてもらいました。その中で印象に残っているのは、カイアがテイトの忘れていったネルシャツを嗅ぐ場面。恋するってこういうことだよねと、ひしひしと伝わってきて。彼の姿はそこになくても、彼が残していったエッセンスをちゃんと味わっておきたいという恋焦がれる感じが伝わってきて、すごく良かった!デイジーはなんてことはない身のこなしや息の吐き方がものすごく繊細でした」。