『ザリガニの鳴くところ』オリヴィア・ニューマン監督が明かす、キャスティング秘話とロケーションに込めた想い

インタビュー

『ザリガニの鳴くところ』オリヴィア・ニューマン監督が明かす、キャスティング秘話とロケーションに込めた想い

「部屋の中に湿地が入り込んで、カイアと一体となる様子を美術で表現している」

もうひとつカイアのパーソナリティを形成するうえで大きな要素となっているのが、湿地にポツンと建つ木造のコテージである。原作で描かれた架空の町、バークリー・コーヴの雰囲気を求め、撮影は米ルイジアナ州ニューオリンズ周辺で行われた。美術監督のスー・チャンは撮影のために国立公園内に一軒の家を建築。室内には湿地でコレクションした珍しい貝、石、植物、鳥の羽などまるで小さな博物館のように飾られ、カイアのパーソナリティと直結した空間となっている。

カイアのパーソナリティを体現するのが、1軒丸ごと建てられた湿地のコテージ
カイアのパーソナリティを体現するのが、1軒丸ごと建てられた湿地のコテージ[c] 2022 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

「スー・チャンに求めたのは、湿地の奥の奥にひっそりとあるコテージで、そこには何時間も歩くか、あるいはボートでしかたどり着けない辺鄙な距離感です。映画の中では、こんもりとした森の中にあるように見えますが、実際にはすぐそばに大きな豪邸があり、それを隠すために、樫の木に大量の枝やコケを垂らして目隠ししているんです。スーに依頼したもうひとつの重要な要素は、カイアの一族の歴史を紐解くことでした。もともとはカイアの祖父が湿地に釣りに来るための掘っ立て小屋だったんでしょう。カイアの父と母が結婚し、子どもたちが増えたことで増築し、その時にポーチも作ったという設定にしています。やがてカイアが成長し、身の回りの自然環境への興味、関心、知識が深まるにつれ、部屋の中に湿地から持ち帰ったものがどんどん増えていく。最終的には部屋の中に湿地が入り込んで、彼女と一体となる様子を美術で表現しています」。

【写真を見る】小さな博物館のように、珍しい貝や鳥の羽などが飾られたカイアの部屋
【写真を見る】小さな博物館のように、珍しい貝や鳥の羽などが飾られたカイアの部屋[c] 2022 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.


カイアの暮らす場所がリアルに再現された一方、湿地での撮影が大変だったという。

「ボートでしか行けない場所での撮影が多く、特に撮影チームは絶対に全員そこにいなくてはいけないのでボートの数も多かったし、簡易トイレを乗せたボートも用意しなくちゃいけなかったから大変でした!浅瀬では撮影ができないからそれなりの深さを求めたし、それでも潮の引き潮、満ち潮が予測とはずれて、やむなく撮影中止となった日も」。

湿地での撮影の苦労を明かす
湿地での撮影の苦労を明かす[c] 2022 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

映画ではチェイス殺しの判決の行方をスリリングに描くドラマとして構成されているが、ニューマン監督は原作に記述されている、その後のカイアの長きにわたる人生の歩みにも、思いを馳せてほしいと語る。

『ザリガニの鳴くところ』を手掛けたオリヴィア・ニューマン監督
『ザリガニの鳴くところ』を手掛けたオリヴィア・ニューマン監督[c] 2022 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

「カイアは子どもを持つことができなかった人生となりましたが、女性が誰しも母親になるわけでなく、それでいいのだということを原作者のディーリア・オーエンズは描いていて、とても美しい設定だと思っています。自分の子どもは持てなかったけど、年を重ねるごとに、カイアは自分の世界を大きく広げていった。映画で描いたサバイブというテーマと共に原作も楽しんでもらえれば幸いです」。

取材・文/金原由佳

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