『ザリガニの鳴くところ』オリヴィア・ニューマン監督が明かす、キャスティング秘話とロケーションに込めた想い
「テイトとチェイスの、それぞれの違いを楽しんでもらいたい」
また、幼いカイアを演じたジョジョ・レジーナもエドガー=ジョーンズに負けず劣らずプロ魂の持ち主だ。
「ジョジョは相当な発見でした。あれくらいの年齢で、大人の俳優と同じくらい準備をしてくる子を見たことがなかったので。カイアのトラウマは、家族に捨てられたことにあります。母親が家を出て行ってしまい、父親が母の置いていった絵画や洋服を燃やす場面がありますよね。あの日のジョジョは撮影現場に来た段階ですでに涙目になっていました。お父様がコーチングされていることも関係していますけど、『カイアのパパはなんでこんなに意地悪なの?なんでこんなつらい目に合わなくちゃいけないの?』と訴えてきて、私も一緒に泣いて、すぐにカメラを回したんです」。
レジーナが演じた幼少期が効いていて、エドガー=ジョーンズ演じる成長したカイアの内面に潜む心の傷の物語に説得力がある。ニューマン監督はエドガー=ジョーンズと、成長したカイアの抱えるトラウマについて深くやり取りしたという。そのカイアの心の傷のトリガーを再び引くのは、町からやってくる2人の男。1人は兄の友人で、カイアに文字を教えるテイト(テイラー・ジョン・スミス)と、もう1人はカイアと交際した後、変死体として発見されるチェイス(ハリス・ディキンソン)。2人の男性との出会いがカイアの人生を大きく変えるのだが、この2人の配役の秘訣は?
「まずはチェイスの配役から決めました。チェイスはナルシスト的な人物で、人を遠隔操作しようとする男性。高校時代はアメリカンフットボールのクォーターバック(QB)という花形選手で、つまりは高校時代が人生のピークという人物です。カイアを支配しようとする行動の裏には自分への自信のなさが隠れていて、周囲から自分に課せられている期待に押しつぶされそうになっている点や、いまいち自分が何者であるかわかっていないこと。親の跡を継がねばならず、我が道を選べないつらさなどが隠れていて、複雑な人格を演じてもらわなくてはいけない役だから、何年も前から目をつけていたハリス・ディキンソンを選びました。実はテイト役に選んだテイラー・ジョン・スミスにもチェイス役のオーディションを受けてもらったんですけど、彼はすごく温かみのある人で、現場に来ると彼の周囲に光が差すような印象を与える人で、チェイス役には合わなかったんです。テイトは無条件にカイアを愛するけど、チェイスは父親からの期待と彼女との愛で葛藤する。それぞれの違いを楽しんでもらえればと思います」。