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ジェニファー・ローレンスらが語る『その道の向こうに』の“必要性”「いますぐにこの映画を作らなくてはいけない」

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ジェニファー・ローレンスらが語る『その道の向こうに』の“必要性”「いますぐにこの映画を作らなくてはいけない」


リンジーの孤独と葛藤を受け入れる、同じく深いトラウマを抱えたジェームズ役を、『ビール・ストリートの恋人たち』(18)や『エターナルズ 』(21)、『ブレット・トレイン』(22)、ドラマファンには「アトランタ」のペーパーボーイ役でよく知られているタイリー・ヘンリーが演じている。ノイゲバウアー監督とタイリー・ヘンリーは20年来の友人で、このプロジェクトと監督を支え続けた立役者だという。

ブライアン・タイリー・ヘンリーが地元の自動車整備士ジェームズを演じる
ブライアン・タイリー・ヘンリーが地元の自動車整備士ジェームズを演じる[c]Apple TV+

タイリー・ヘンリーは、この役を演じるうえで自身が抱えるトラウマとも向き合うことになったと告白する。「ジェン(ローレンス)とライラと映画を作るなかで、これらの登場人物がどんな人物でどんな人生を歩んできたのか、何層にもわたって振り返りました。ニューオーリンズで生まれ育ち、最大の悲劇を経験したことで、どこへも行けなくなってしまった男が、誰かを家に招き入れるシーンがあります。そこで彼は、『なんてことだ、ここは空っぽだ』と初めて気がつきます。私も母を亡くし、長いことトラウマに苦しんでいました。トラウマとは、孤独で空虚な空間を行き来するようなものだと思います。私たちはトラウマを障害だと捉えがちですが、そうではありません。今日、映画をここで観て気づいたことがあります。空虚さは悲しみでしか埋められないと感じることがあっても、隣には常に誰かがいて、その人を信頼することができるのです」と、感慨深く語っていた。

主演のジェニファー・ローレンスとブライアン・タイリー・ヘンリー
主演のジェニファー・ローレンスとブライアン・タイリー・ヘンリー[c]EVERETT/AFLO

前述したように、ノイゲバウアー監督はニューヨークの演劇界で15年以上舞台演出を務めてきた。舞台からスクリーンに活動の場を移す演出家は多い。ノイゲバウアー監督は、「演劇と映画は根本的な構造が異なる」としながら、「映画を作った経験から、ストーリーテリングの衝動や視覚的構成、俳優たちの台詞など、芯となるクリエイティブな衝動は、舞台演出と全て一致していると気づきました。これは大きな発見でした」と語る。


一方、主に映像表現を活動の場とするローレンスは、「舞台では、毎晩同じ台詞を発することによって言葉や言語について研究するような感じでしょうか。舞台を経験した友達からは、『毎晩、感じ方が違うような気がする』と聞いています。ライラの演出は、台詞を発する言葉遣いや役柄の研究に細心の注意を払っていたので、このように全員が深く役柄に関わるような映画になったのだと思います」と述べた。

【写真を見る】トラウマと向き合う…ジェニファー・ローレンスも魅了された『その道の向こうに』
【写真を見る】トラウマと向き合う…ジェニファー・ローレンスも魅了された『その道の向こうに』[c]Apple TV+

その道の向こうに』は、トラウマを抱えた、素性も生き方も違う二人が最少の言葉や感情表現を重ねることで理解し合う奇跡のような瞬間を描いている。毎晩行われる公演で、会場を埋める観客と共に舞台を作りだす経験をしてきたノイゲバウアー監督の繊細な演出が、映像でも功を奏している。まさに世界中の人々がパンデミックから受けた傷を癒している2022年、映画業界から少し距離を置いていたローレンスが「いますぐこの映画を作らなければならない」と感じた“表現者の勘”は正しかったのだろう。

文/平井伊都子

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