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怪物たちの地獄の饗宴!視覚効果の巨匠フィル・ティペット監督が語る、創造力の源流と次世代への架け橋

インタビュー

怪物たちの地獄の饗宴!視覚効果の巨匠フィル・ティペット監督が語る、創造力の源流と次世代への架け橋

「若いクリエイターたちに、いちからストップモーションをレクチャーした」

1984年にティペット・スタジオを設立し、初の長編として『マッドゴッド』の制作はスタートする
1984年にティペット・スタジオを設立し、初の長編として『マッドゴッド』の制作はスタートする[c]2021 Tippett Studio

視覚効果を手がける一方「自分の映画を撮りたいという夢をずっと持ち続けていた」と語るティペットは、1984年にILM(インダストリアル・ライト&マジック)を離れ自宅のガレージにティペット・スタジオを設立。恐竜の生態をストップモーションで描いた短編『Prehistoric Beast』(84)を監督した。そして『ロボコップ2』(90)を終えた後、長編『マッドゴッド』に着手。ところが間もなく視覚効果のデジタル化の波が押し寄せて、ティペット・スタジオもCGスタジオに再編されるなか、撮影は中断された。「それから20年も放置したままだった。ところがそのフッテージを偶然目にしたスタジオの若い連中が興味を持ち、自分もやってみたいと言いだしたんだ」と、再スタートのきっかけを明かしてくれた。

生命力が宿っているような質感のクリーチャーたち
生命力が宿っているような質感のクリーチャーたち[c]2021 Tippett Studio

この間『スターシップ・トゥルーパーズ2』(04)を監督したティペットにとって、『マッドゴッド』は2作目の長編。ストーリーはシンプルで、アサシンがクリーチャーひしめく地獄のような世界をめぐる一種のトリップ映画になっている。グロテスクだがユーモア漂うクリーチャーのデザインや、生き生きと動きまわる姿はティペットの持ち味にあふれている。

コマ撮りへの情熱と愛に満ちあふれた映像で物語は進行していく
コマ撮りへの情熱と愛に満ちあふれた映像で物語は進行していく[c]2021 Tippett Studio

パントマイムで物語を伝えるサイレント映画が好きだというティペットは、ドラマ性を省いた本作で視覚による表現を突き詰めたいという思いがあったようだ。「彫刻や絵画をベースにしたストップモーションは、古くからある手法を今日のスタイルで描いた芸術といえる。そんな創作行為を遡ると、クロマニョン人の洞窟壁画に行きつくんだ。フランスでいくつかの洞窟を訪れたことがあるが、そこにはゴーストや人と動物を合体させた奇妙な生き物が描かれていた。それを見たとき視覚で物語ることのすばらしさを感じたし、そのDNAは私たちにも受け継がれていると思う」と力説する。

ストップモーションへの並々ならぬ想いを語ったティペット
ストップモーションへの並々ならぬ想いを語ったティペット[c]2021 Tippett Studio


少年時代、クリーチャーを愛する仲間たちの導きでストップモーションをマスターしたティペット。第一人者となった彼は『ジュラシック・パーク』でCGアニメーターに恐竜を生き生きと描くためのコツを指南し、『マッドゴッド』ではさらに若い世代のクリエイターにパペットを使った撮影法を伝授した。「人形を操ったことのない彼らのために、いちからストップモーションをレクチャーした。みんな夢中になって楽しんでいたよ」と振り返るティペット。コンピュータはツールにすぎず、大切なのは作り手の創造性だと語る彼のクラフトマンシップは、『マッドゴッド』を架け橋に次の世代へと受け継がれたようだ。

『マッドゴッド』は公開中!
『マッドゴッド』は公開中![c]2021 Tippett Studio

取材・文/神武団四郎

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