「キャメロン監督が『攻殻機動隊』で真っ先に褒めてくれたのも水のシーンだった」『アバター』最新作を観た押井守監督が明かした秘話
「『ああ、やっぱりキャメロンって映画のために生きてるんだな』ということを改めて痛感した」
――あのイルカの役割を果たす生物はイルー、クジラのように大きいのはトゥルクンという名前ですね。
「そのトゥルクンを人間たちが捕まえようとするシーンは捕鯨を意識しているよね。まず、目が行ったのは、さすがキャメロンだけあって捕鯨船を巡るメカが大充実しているというところ。捕鯨船にキャッチボート、潜水艇があって、空には偵察機、カニのような多脚ロボットも出てくる。しかもそれぞれデザインも悪くない。キャメロンの思い入れは伝わってくる。
捕鯨シーンについては、日本は捕鯨国で、世界の環境団体からいろいろ言われていて耳が痛いシーンではあるんだけど、知識人でもあるキャメロンは単純に捕鯨国だけを責めているわけじゃない。というのも、あの巨大な生物から、ほんの少し、1リットルに満たないくらいの貴重な液体を抽出し、あとはすべて捨てるという設定にしている。これは、かつて欧米がやっていた捕鯨のやり方で、彼らは鯨油だけを取ってあとはほぼ捨てていたんですよ。日本の場合は、それこそ肉から骨まで使っていたことを考えれば、本作で描かれるのは欧米のやり方。それは(ハーマン・)メルヴィルの『白鯨』にも書かれていて、キャメロンにはちゃんとそういう知識もある。いまでも捕鯨をしている国に対する皮肉に留まるのではなく、かつての欧州の捕鯨のやり方も意識している。やはりクレバーなんです」
――そういうことも含め、“水”関係の映像表現がすべてできあがったという感じですね。
「これからフィルムメーカーは、水を表現しようとすると、必ずこの作品と比較されるからね。デジタルの進歩は日進月歩なので、これからこれ以上の表現も出てくるだろうと考えるのは安直。前作も結局、13年もの間、『アバター』以上の映像はなかったんだから。今回もまた同じことになるんじゃないの? 前作のクオリティをまたキャメロンが自分で押し上げたという感じだよね」
――3Dという点ではいかかでしたか?
「まだ3Dにこだわっているんだと思ったけど、確かに進化はしていた。ひと言でいうとソフィスティケート(洗練)されていたということになるかな。違和感がなくなったし、スクリーンも明るくなり、3Dの成熟は感じる。あまりに馴染んじゃって、初めて3Dを観た時のようなインパクトはなかったかもしれないけどさ(笑)」
――映画を通じて、キャメロン自身の変化のようなものは感じましたか?
「変化じゃないけど、『ああ、やっぱりキャメロンって映画のために生きてるんだな』ということを改めて痛感したよね。本当に、映画のためにとことん貢献している。私もそうだから、その気持ちはちゃんとわかるし、伝わってくる。もちろん、言うまでもなく規模もまるっきり違うし、映画に対する考え方も水と油くらいに違う。でも、映画のために生きているという生き方は同じ。たとえ、映画史を塗り替える大ヒットメーカーになったとはいえ、そこは昔と変わってないんですよ」
取材・文/渡辺麻紀
1951年生まれ。東京都出身。『うる星やつら オンリー・ユー』(83)で劇場映画監督デビューを飾る。1995年に発表した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はジェームズ・キャメロンやウォシャウスキー姉妹ほか海外の監督に大きな影響を与えた。また、『紅い眼鏡』(87)、『アヴァロン』(01)、『ガルム・ウォーズ』(14)など多数の実写映画作品も手掛ける。ほか代表作に、『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)、『イノセンス』(04)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)、「THE NEXT GENERATION パトレイバー」シリーズなどがある。