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リベンジドラマの新たなマスターピース「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」が示す、校内暴力被害者への連帯

コラム

リベンジドラマの新たなマスターピース「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」が示す、校内暴力被害者への連帯

ドラマの配信後、2006年に韓国・清州の中学校で実際に起きた校内暴力がネットで話題になった。ある女子生徒が、同級生たちからヘアアイロンや安全ピンなどで暴行され、腕・足・太ももなどに火傷などの深刻な怪我を負ったこの事件は、製作陣の言及はないもののドンウンのケースと酷似している。古くから拷問や刑罰に焼きごてが使われていたように、熱による傷は体に残りやすい。そして、治癒の過程で痒みに苦しまされる。ぶり返すその感覚はまるで、心身に刻み付けられ、忘れようとしても襲い掛かってくる痛ましい負の記憶そのものではないだろうか。復讐にまい進する強靭な精神のドンウンだが、ふとした瞬間にトラウマに苛まれ、火傷の痕をかきむしる。そのたびに、被害者が背負わされた荷の理不尽な重さに言葉を失ってしまう。

脚本家が描いた自分自身の闇。復讐とは自らも破滅する暗黒の旅

ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の完成度を高めたのは、復讐という行為の複雑さに肉薄したストーリーラインが挙げられる。退学を余儀なくされたドンウンが、新たなターゲットを体育館でなぶるヨンジンたちの元へ静かに近づいてくるシーンがある。いつも通り見下すような不敵な笑みのヨンジンを見据え、ドンウンは「私の将来の夢はあなた」と言い放つ。

ヨンジンたちは「退屈だから」とドンウンに暴力を振るい続けた
ヨンジンたちは「退屈だから」とドンウンに暴力を振るい続けた[c]Netflix

ここでカメラは2人を切り返しで映しているが、彼女たちの黒々とした瞳が向き合うショットに、一瞬ドンウンとヨンジンが重なるような錯覚に陥る。ドンウンはヨンジンたちのせいで、ごく普通の女子高生から被害者の人生へ突き落された。しかし、哲学者のニーチェが説いたように、怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。ドンウンが深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。その後、成人したドンウンはヨンジンへ「一緒にゆっくり枯れて死のう」ともささやく。なぶられ続けたドンウンには何ら落ち度がないが、それでも復讐は“正義”ではなく、憎い相手もろとも破滅していく暗黒の旅路だと自覚しているのだった。

リアリティを追求した本作には思わず目を覆うシーンも
リアリティを追求した本作には思わず目を覆うシーンも[c]Netflix

本作は韓国のレイティングで青少年観覧不可となっている。その理由を、法の下ではない私的制裁を描いているからだとキム・ウンスクは語り、「個人的に私的な復讐は好きではない。ドンウンの哲学が、19禁(青少年観覧不可)であるべきだと思ったんです。物事の判断ができる大人の方々に見ていただきたいです。自分の内面の闇を引き出した部分もあります」と明かす。こうした作家の苦悩によって、物語がより深みを持つ。

復讐と人間性の狭間で揺れるドンウンの表情が胸を打つ

また、キャラクターのアンサンブルも精彩を放ち、物語を厚くした。医師の家庭に生まれ育ち、自らも形成外科医というヨジョン(イ・ドヒョン)は、ドンウンから見れば厳冬を知らない温室育ちの穏やかな青年だが、ある悲劇によって心に暗い感情が沈殿している。出逢いのきっかけはドンウンへの一目ぼれだったが、彼女の凄まじい過去を聞き、「私のために剣舞を踊る処刑人になってほしい」という要望を聞き入れることになる。

ドンウンを助けるため、冷たい処刑人になる決意をするヨジョン
ドンウンを助けるため、冷たい処刑人になる決意をするヨジョン[c]Netflix

夫から激しい家庭内暴力を受け続けていた主婦ヒョンナム(ヨム・ヘラン)は、偶然ドンウンの計画を知り、夫の殺害を条件にドンウンの加害者たちの監視を引き受ける。

母の愛を知らないドンウンにとって、ヒョンナム(ヨム・ヘラン)は暖かな保護者のよう
母の愛を知らないドンウンにとって、ヒョンナム(ヨム・ヘラン)は暖かな保護者のよう[c]Netflix

こうして協力者としてなった3人だが、ヨジョンとヒョンナムとのかかわりは冷酷な復讐鬼のドンウンを「平凡で貧しいながらも夢を持つ、芯の強い女性」に戻してくれる瞬間がある。ヒョンナムは「私は陽気な被害者なの」とドンウンに言い、あざだらけの顔で笑う。全身に残る火傷を目にした後、「痕を見たでしょう」とつぶやくドンウンにヨジョンが語り掛けた「痕じゃなくて、傷だ」というセリフは、どんな愛の言葉よりも真心が息づいている。こうしたエモーションが共鳴し合うたびに揺らぐ彼女の表情に、強く胸を打たれる。

ドンウンは破壊された心を取り戻そうと復讐に燃える
ドンウンは破壊された心を取り戻そうと復讐に燃える[c]Netflix

このように観ていくと、「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」がシーズン2でたどり着くのは、分かりやすいカタルシスではないのではないように思う。しかし、私たちはドンウンの復讐劇の顛末から目をそらしてはいけない。重苦しい記憶を分かち合い、たとえその先に地獄が待っていようと、共にあろうとする。それこそが、被害者の沈んだ心に寄り添うということなのだ。

文/荒井 南

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