韓国で話題の注目作!極上の歴史サスペンス『The Night Owl』が成功した理由とは?

コラム

韓国で話題の注目作!極上の歴史サスペンス『The Night Owl』が成功した理由とは?

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け続けた韓国映画界と劇場も、少しずつ日常を取り戻しつつある。公開が延期されていたビッグタイトルがひしめいた中で、年の瀬から忠武路(映画の街として知られている、韓国における韓国映画界の代名詞)を騒がせているのは、やはり『The Night Owl』だろう。

【写真を見る】不気味なムードが観客の好奇心を刺激する『The Night Owl(原題)』ポスター
【写真を見る】不気味なムードが観客の好奇心を刺激する『The Night Owl(原題)』ポスター[c]NEW

朝鮮王朝を舞台に、盲目の鍼師がある謎めいた死の真相を解き明かそうとするこの映画は、2022年11月23日に公開されると好評の口コミが拡散されて観客が増え続け、難なく損益分岐点を突破。約1か月で観客動員数317万人を叩き出した。ヒットの原動力となったのは、歴史サスペンスという王道のドラマに加えられた新機軸のエッセンスと、磨かれた美的感覚を発揮したスタッフワーク、そして堅実な演技に定評がある俳優陣のアンサンブルだ。

苦節17年!大器晩成型の新人監督がこだわりが詰まった珠玉の歴史サスペンス

盲目の鍼師ギョンス(リュ・ジュンヨル)は、医師ヒョンイク(チェ・ムソン)に才能を認められ、内医院(王室の医療機関)に登用される。その頃、清国に人質として囚われていた昭顕世子(キム・ソンチョル)が帰国。ところが彼は突如病に伏し、数日後の晩に亡くなってしまう。ギョンスは夜になると視界が冴える主盲症で、世子の最期を目撃していたのだった。一方、息子を失った仁祖(ユ・ヘジン)は、不安と狂気で精神を病み始める。ギョンスは世子の死の真相を探るにつれて、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。

宮廷の陰謀に巻き込まれたギョンスの運命やいかに
宮廷の陰謀に巻き込まれたギョンスの運命やいかに[c]NEW

このユニークな時代劇サスペンスを生み出したアン・テジン監督は51歳。何と本作がデビュー作という、遅咲きの新鋭だ。彼は『達磨よ、ソウルに行こう!』(04)の演出部に参加したのち、イ・ジュンギが美しき道化師を演じて1000万人の興行を記録したイ・ジュニク監督『王の男』(06)でも助監督を務めた。その後は投資を集められなかったり、キャスティングで頓挫するなどなかなかチャンスを掴めず、本作が待望の初監督作品となった。クランクイン直前までスタッフと俳優たちの意見を反映しつつシナリオの手直しに励んだり、撮影中も創作上のストレスで腸炎にかかるなど苦労が絶えなかったようだが、持ち前の才能と努力が結実し、興行面はもちろん「歴史の余白を埋める想像力に長けた俳優たちの新鮮な好演が力を加えた」と、評壇からも喝采を浴びた。

多くの撮影現場で力を蓄えたアン・テジン監督の演出力が光る
多くの撮影現場で力を蓄えたアン・テジン監督の演出力が光る[c]NEW

そんなアン・テジン監督が「史実における可能性の余地に映画というイマジネーションを加えて作った作品」と紹介したように、『The Night Owl』は朝鮮王朝で実際に起きたある不審死に新たなキャラクターが付け加えられている。王の日々の言動やその時の政治の動きなど様々なことを記し、死後に業績の記録として書き残された「仁租実録」を紐解くと、昭顕世子の死について「まるで薬物中毒で死んだ人のようだった」と、やや気がかりな様子が伝えられている。監督は歴史上のミステリーを着想源に、昼は盲目だが夜になるとかすかに物が見える“主盲症の鍼師”と言う斬新な設定をミックスした。


そして“ファクション”と呼ばれる実際の歴史と仮想の人物が融合したストーリーを縦軸に、偶然事件を見た人間が犯人に追い詰められる“目撃者スリラー”という要素を横軸にストーリーラインを構築し、バランスをとりながらまとめていく努力をしたそうだ。この創意工夫によって、観客たちの想像力を存分に刺激し、フィクションならでは躍動感と歴史物というリアリティを併せ持つ劇として成功した。

キャラクターに息を吹き込んだ綿密なリサーチと、緻密なスタッフワークに驚嘆する

本作のキーとなるのは、主人公ギョンスのハンディキャップ、明るい所での視力が暗い所でより低下する主盲症だ。あまり聞き慣れない言葉だが、白内障の症状として実際にあるのだそうだ。映画はこの症状を、昼よりも夜間に視力が優位になるフクロウ(The Night Owl)に例えている。加えて、夜に餌を狩るフクロウのように、一晩という限られた時間の中で起こる事件のメタファーとしても機能する。こうした深い意味を持つタイトルが緊張感を高め、映画の吸引力をさらに高めている。

撮影の合間も、リュ・ジュンヨルは子役たちの人気者だったという
撮影の合間も、リュ・ジュンヨルは子役たちの人気者だったという[c]NEW

アン・テジン監督はギョンスが持つ主盲症をよりリアルに表現するため、シナリオ執筆当初から眼科医のアドバイスを受けた。そして主演のリュ・ジュンヨルとともに実際の主盲症患者へインタビューをしたり、ネットの眼疾患コミュニティーで経験談を収集するなどして、キャラクターに立体感を加えた。

主盲症の鍼師という新しいキャラクターのために尽力した俳優とスタッフたち
主盲症の鍼師という新しいキャラクターのために尽力した俳優とスタッフたち[c]NEW

製作陣もまた、ギョンスの視野を表現するために腐心した。暗闇の中で起こる事件の緊迫感を効果的に演出しなければならないため、撮影時にはストッキングと水枕をカメラの前にかぶせ、何かが見えながらもスタイリッシュにぼやけているギョンスの視界を作り出した。しかし、こうすると焦点が合わず、光はすべて誇張されたイメージで映し出される。アン・テジン監督は「ファンタジー映画のように見えないように、できるだけ光学的な効果だけでギョンスが見る視点を作り出そうとした」と伝えた。

暗がりの表現が映画をサスペンスフルに彩る
暗がりの表現が映画をサスペンスフルに彩る[c]NEW

これに加え、登場人物たちの性格を想起させるため、製作陣の意匠を凝らした仕事ぶりにも瞠目させられる。例えば、プロダクション・デザインには『観相師』(13)や『パラサイト 半地下の家族』(19)などに魂を吹き込んだイ・ハジュン美術監督の手腕が冴え渡っている。仁祖がいる室内には、秘密が隠されている雰囲気を与えるため、明るいところでは暗がりが見えない房帳(冷気を防ぐため部屋に張っていた、現代で言うカーテンのような物)を職人に依頼し、他方でギョンスの住まいである茅葺きは切迫した生活状況を強調するため、小さなあばら屋に設定するなど、そこかしこに細心の注意を払った。

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