南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)
「DVD&動画配信でーた」と連動した連載「彗星のごとく現れる予期せぬトキメキに自由を奪われたいっ」では、私、南沙良がミニシアターを巡り、その劇場の魅力や特徴をみなさんにお伝えします。第30回は墨田区にある「Stranger」さん。チーフディレクターの岡村忠征さんとの対談の模様をお届けします!
「とても映画館に見えない!」(南)
(館の正面入り口にて)
南「外からはとても映画館に見えませんね」
岡村「普通の映画館は外から中をのぞきづらい構造ですが、うちは入口が大きなガラスの引き戸なので、中がよく見えます。書店やアパレルショップに近い作りなんですよ。もっと言うと、館名も『stranger』で、あえて映画館っぽい『◯◯座』とか『シアター◯◯』にしていません」
南「どうしてですか?」
岡村「あとでまたお話ししますが、既存の映画館とは違うイメージづくりをしたいと思って」
南「外観はお洒落なカフェみたいです」
岡村「ロビーのカフェで出すコーヒの豆にもこだわりがあって、群馬県の前橋市にあるSHIKISHIMA COFFEEさんと一緒に、strangerのオリジナルブレンドを作ってもらってるんですよ。焙煎のコンテストで日本一になった焙煎所です」
南「カフェみたい、じゃなくて、もはや本格的なカフェなんですね!」
岡村「おっしゃる通りで、うちは『映画館のロビーが充実している』のではなく、『カフェと映画館が両立している』んですよ。カフェを存分に楽しんでいただきたいので、上映と上映の間を通常の映画館より長く、3〜40分空けています。もっと詰めて上映すれば上映回数が増やせるんですが」
南「さっきお客さんたちが、コーヒーを飲みながら軒下の階段部分に座っていました」
岡村「ええ、お客さんに溜まってもらえるために、軒下スペースをわざと作っているのがファサード(建物正面)の特徴です。これがなければ、客席数をもっと増やせるんですけどね(笑)」
「映画を観たあとに語り合える場所にしたかった」(岡村)
(ロビーを案内してもらう)
南「ロビーもすごくお洒落です。あの大きな写真は?」
岡村「木村和平さんという写真家さんの作品です。映画館って、ともすれば映画マニアだけのものになりがちというか、排他的になりがちじゃないですか。もっとオープンで、ほかのカルチャーやアートに興味のある人と、ここで交流してもらいたいと思って」
南「交流、ですか」
岡村「古着屋でもレコードショップでも店員さんがお客さんに話しかけてくるけど、映画館だけが、お客さんと距離を保つのがホスピタリティだということになっています。だけど僕らは『こんにちは、今日いかがでしたか?』って話しかけたいんですよ」
南「逆に、お客さんがスタッフの方に話しかけてもいいんですか?」
岡村「もちろんです。映画って、観たあとに語りたいと思ったら、わざわざ近くのスタバとかに行って話すじゃないですか。でもそれって、すごくもったいない」
南「ここなら、ロビーのカフェスペースでゆっくり話せばいいんですね」
岡村「はい。配信でいくらでも作品が観られる時代に、観たその場で感想を言い合えたり、
映画の情報交換ができたりする場所があれば、きっとわざわざ足を運びたくなるはず。だからキッチンカウンター越しに、スタッフに話しかけてくれても構いませんよ」
映画好き同士でつながりあう“ギャラリー型”の映画館
南「キッチンに置いてあるコーヒーマシン、ぴかぴかですね」
岡村「コーヒーマシン、本来はロゴの部分が赤なんですけど、strangerのブランドカラーである水色にカスタマイズしちゃいました」
南「そういえば先ほどから、ロゴデザインやインテリアがすごく洗練されているなって。キーカラーの水色が印象的で」
岡村「映画館を新しく作るにあたって、ブランドビジネスとしてやっていきたかったんです」
南「ブランドビジネス?」
岡村「従来の映画館って、美術館のようにお客さんが静かに鑑賞する空間を提供することに主眼を置いていたと思うんです。だけど、僕たちはそういう『ミュージアム型』ではなく『ギャラリー型』を目指しました。映画を知って、観て、語りあって、論じ合って、映画好き同士でつながりあう。それらを一連のstrangerのブランド体験として感じていただければと」
南「館名が映画館っぽくないのも、それが理由なんですね。グッズの物販スペースも、この一角だけセレクトショップみたいです。strangerのロゴ入りTシャツやマグカップのデザインがすごくすてきで」
岡村「それも『映画館でつながる』ためなんですよ。アナログレコードが好きな人って、ディスクユニオンのトートバッグを持ってるじゃないですか。同じように、strangerに来たことのある人はこのTシャツを着てる、みたいな状況を作りたいなと」
南「物販コーナーで売っている雑誌、もしかしてこちらで作ってるんですか?」
岡村「はい、創刊しました。編集も僕がやってます」
南「す、すごい…」
岡村「これは映画を『論じ合う』の部分ですね」
公式サイト https://stranger.jp/
住所 東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
電話 080-5295-0597
最寄駅 都営新宿線 菊川駅
●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、『この子は邪悪』(22)、ドラマ「ドラゴン桜」、「鎌倉殿の13人」、「セイコグラム~転生したら戦時中の女学生だった件」、「女神の教室〜リーガル青春白書〜」など。待機作に、Netflixで3月配信予定の「君に届け」などがある。