南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

コラム

南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

「18歳の時に観た『気狂いピエロ』に衝撃を受けたのが、いまに続いてます」(岡村)

撮影/杉映貴子

南「先ほど、配信では見られないものを上映するとお聞きしましたが、改めて作品セレクトの方針を教えていただけますか」

岡村「まず、こけら落としで上映したゴダールのような、作家主義的な作品の特集上映。次に日本で未配信・未公開のレアな作品。そして新作の二番館、三番館。この3本柱ですね。ただ新作の二番館、三番館に関しては、まだ配給会社さんとのコネクションがないので、ようやく動きはじめたところです」

南「じゃあ、いま上映してるゴダール作品は、配給会社が入っていないんですか?」

岡村「はい。フランスの権利元から直接、日本での3週間分の上映権を買い付けました」

南「すごい熱意ですね。未経験で映画館を経営するだけでなく、作品調達まで全部自分たちでやるだなんて」

岡村「知らないからこそ、できたんだと思います(笑)。僕、作品調達ってもっと簡単なものだと舐めてたんですよ。DJみたいに、自分の好きな映画のプレイリストを組んでお金さえ払えばできるもんだと。そのプレイリストを組むキュレーション能力とセンスがあれば、いけるでしょと。『みんな、もっとこういう作品をやれば人が来るのに。なんでやんないんだろう?』って。でも、買い付けはそんな簡単なものではありませんでした(笑)」

南「でも、無事買い付けられてよかったですね」

岡村「こけら落としは当初からゴダールって決めていました。18歳の時に観た『気狂いピエロ』に衝撃を受けたのが、いまに続いてます。ゴダールって、同作はじめ60年代の作品はよくリバイバルされますが、80年代はゴダールが音響にすごく力を注いだ時期なので、実は映画館で観るのにふさわしい作品が多いんです。それで80年代以降の6作品をラインナップしました」

南「今後はどんな作品を?」

岡村「日本映画もやりたいです。うちのスタッフにものすごいシネフィルの女性がいるんですけど、東映チャンネルを契約しているほど東映のヤクザ映画が大好きで。彼女、さとみんって言うんですが、たとえば『さとみんナイト』と称して彼女セレクトのヤクザ映画を特集上映するとか」

南「おもしろそう!」

岡村「なんでこの映画をかけてるんだろう、誰が好きでかけてるのかな、というのがはっきりわかる企画をやっていきたいなと。中の人の顔が見える映画館でありたいんです」

――「南さんだったら、映画館のこけら落としで何をかけたいですか?」

南「毎回同じこと答えてる気がしますが(笑)。まあ、絶対サメ映画ですね」

岡村「サメ映画特集、めっちゃいいですね。そういうのもやっていきたいです。南さんセレクトのサメ映画特集、頑張って買い付けなくては(笑)」


「“~道(どう)”を消去したい」(岡村)

撮影/杉映貴子

南「既存の映画館の形にこだわらないということですが、今後やっていきたいことはありますか」

岡村「ポップアップショップですね。一定期間だけロビーにお店が出店されるような」

南「たとえば?」

岡村「古着屋さんとコラボした、80年代アメリカ映画のTシャツショップとか。ただ、映画Tシャツってあまり作られてないんです。妻が古着屋で働いているので聞いてみたんですが、映画Tシャツを100枚集めるのに2年かかると言われました」

南「2年!」

岡村「あとは、たとえばクリームソーダが印象的な映画があったら、ロビーでクリームソーダを販売するとか。いまって、店を持たずにイベントにだけ飲食を出店するフリーの方もいるので、そういうコラボができればおもしろいなと思ってます」

南「映画の上映だけじゃなくて、映画を起点にいろいろな展開を考えられているんですね」

岡村「さっきも少し言いましたけど、ガチの映画ファンには排他的な人たちもいて、はっきり言ってお洒落なものが嫌いなんですよ。だからもしかしたら僕たちも鼻持ちならないと思われているかもしれません。チャラいことやりやがって、って(笑)。でも、だからこそ、そこにビジネスチャンスがあると思っていて。ガチの映画好きであるうえで、もう少し幅広い感じでセンスのいいことをやる。そうやって新しい映画好きを生み出していきたいんです」

南「新文芸坐の花俟さんも、年配映画ファンのマウンティングはよくない、というお話しをされていました」

岡村「僕の若いころは映画を体系的に勉強しているかどうかが重要でした。だけどいまの時代は、ググればいつでもなんでも知ることができるので、なにを知っているか、知らないかはたいして重要じゃない。その作品になにを感じたか、それだけでいいと思うんです。フラットに、オープンにやりたいですね」

南「それ、とってもよくわかります」

岡村「“ナントカ道(どう)”になっちゃうのが嫌なんですよ。コーヒー道、映画道。それってフラットでもオープンでもないじゃないですか。“道”を消去したい。でも、突き詰めるところはちゃんと突き詰める。その両方に目が利くことが、僕らの強みだと思っています」

取材・文/稲田豊史

●Stranger
公式サイト https://stranger.jp/
住所 東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
電話 080-5295-0597
最寄駅 都営新宿線 菊川駅

●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、『この子は邪悪』(22)、ドラマ「ドラゴン桜」、「鎌倉殿の13人」、「セイコグラム~転生したら戦時中の女学生だった件」、「女神の教室〜リーガル青春白書〜」など。待機作に、Netflixで3月配信予定の「君に届け」などがある。
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