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南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

コラム

南沙良、ミニシアターを巡る Vol.30 Stranger(後編)

「ブルックリン的な価値観のエリアに映画館を作りたかった」(岡村)

撮影/杉映貴子

南「Strangerがあるのは東京都墨田区、最寄り駅は都営地下鉄新宿線の菊川。やはり近隣にお住まいの方が来られるんですか?」

岡村「もちろん近所の方も来られますが、率直に言うと地元密着だけを目指しているわけではないんですよ」

南「それは意外です」

岡村「映画館経営のポイントって、平日の昼間にどうやって人を集めるか。地元密着に特化すると、リタイアされた地元のシニアの人たち向けにプログラムを組む必要があります。ただ、それに依存しすぎたミニシアターは、コロナ禍でシニアが外出しなくなってしまい、苦しくなりました」

南「たしかに…」

岡村「だからStrangerは、世界観やコンセプトに共鳴してもらって、むしろ街の外から来てもらう映画館にしたい。それは、清澄白河(※)の近くに出店した理由でもあります。清澄白河って、自分たちの世界観をもつお店にわざわざ遠方から来てもらう――というコンセプトを貫いたからこそ、いまの盛況がありますから」

南「そうそう、なぜ菊川に映画館を?というのはお聞きしたかったんです」

岡村「2012年にニューヨークへ遊びに行ったんですが、その時期に巨大なハリケーンが来ていて、マンハッタン島が孤立してしまい、上陸できなかったんです。それで急遽ブルックリンに2週間くらい滞在しました。当時はブルックリンが流行り始めたころで、マンハッタンだと高くてお店を出せない若者たちが、ブルックリンの工場跡や倉庫跡を使っておもしろいことをやり始めていたんです」

南「そうか、菊川をブルックリンに見立てたんですね」

岡村「はい、渋谷・新宿・池袋みたいな、できあがってる“街の威”を借りるのではなく、ブルックリン的な価値観のエリアに出して、わざわざ来てもらいたいなと。実は、最初は中目黒に出そうと思ってたんですが、住居エリアの法規制によって映画館は出せないとわかった。それで調べてみると、東京の東半分ってミニシアターが一軒もないんですよ」

南「そうなんですか?」

岡村「いちばん東でも銀座エリアです。だからミニシアター空白地帯であるこのエリアに目を向けました。ただ僕自身、菊川どころか、都営新宿線自体ほとんど乗ったことがなかったので、ちょっとギャンブルでしたけど」

南「ちょっとどころじゃないギャンブルです(笑)。でも、良い物件が見つかってよかったですね」

(※)東京都江東区にある、都営地下鉄・大江戸線と東京メトロ・半蔵門線が乗り入れる駅。駅周辺に来お洒落なカフェやコーヒスタンドが立ち並ぶ。菊川駅からは乗り換え1回、2駅。東京都現代美術館の最寄り駅でもある。


「閉館した映画館の遺志を受け継ぎたい」(岡村)

【写真を見る】南沙良がミニシアター「Stranger」の魅力を紹介!チーフディレクター岡村さんとの対談をロングインタビューで掲載
【写真を見る】南沙良がミニシアター「Stranger」の魅力を紹介!チーフディレクター岡村さんとの対談をロングインタビューで掲載撮影/杉映貴子 ヘアメイク/藤尾明日香 スタイリング/藤井希恵

岡村「スクリーンの横幅をどうしても4m以上取りたかったんですが、そのサイズのスクリーンだと、普通の物件は天井の高さが足りないんです。その点、ここは70年続いた老舗のパチンコ屋さんが入っていたので天井の高さが十分でした」

南「音響もこだわっているそうですね」

岡村「皆さんから高評価をいただいています。スピーカーは山形県の鶴岡まちなかシネマというシネコンのもの。4スクリーンを1スクリーンに減らして再オープンするということで、余ったものを譲り受けました。つまりシネコンの数百席用のスピーカーを49席の箱で使っているんです」

南「贅沢!」

岡村「音響と映写の設計はアテネ・フランセ文化センターの堀三郎さんという、業界でも有名な方にコンサルティングしてもらっていました」

南「座席もフカフカですね」

岡村「キネット・ギャレイという、フランスの劇場専門の椅子メーカーのものです。新潟県の十日町シネマパラダイスが閉館して使わなくなったものを譲ってもらいました。そのとき間に入ってもらったのも堀さんです」

南「以前うかがった青梅のシネマネコさんも、十日町シネマパラダイスから譲ってもらったとおっしゃってました!」

岡村「シネマネコさんに椅子を斡旋したのも、堀さんですよ。なので、あといくつ椅子が残っているかも把握されていて、『あと5、60はあるよ』なんて教えてくれました(笑)」

南「映画館同士、不思議なつながりがあるんですね」

岡村「閉館した映画館の遺志を受け継いでいる、とも言えます。そのおかげでクオリティの高い劇場にすることができました」

●Stranger
公式サイト https://stranger.jp/
住所 東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
電話 080-5295-0597
最寄駅 都営新宿線 菊川駅

●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、『この子は邪悪』(22)、ドラマ「ドラゴン桜」、「鎌倉殿の13人」、「セイコグラム~転生したら戦時中の女学生だった件」、「女神の教室〜リーガル青春白書〜」など。待機作に、Netflixで3月配信予定の「君に届け」などがある。
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