コラム 2023/1/22 17:30

『別れる決心』でタン・ウェイが体現した、新たなファム・ファタール像。世界を虜にする魅力の秘密

鬼才パク・チャヌクと最強タッグ！入念な役作りで言語の壁を越えたタン・ウェイ

実はタン・ウェイのキャスティングは、パク・チャヌク監督の悲願だった。彼女へのオファーは、脚本が完成する前にすでに決まっていたというパク・ヘイルと同じタイミングであり、ヒロインのソレを中国人に設定したのも、彼女に出演してもらうためだったそうだ。パク・チャヌク監督は「『ラスト、コーション』を観た時から、彼女と映画を撮りたいと思っていました」と明かし、「自信に満ちたソレというキャラクターは彼女なら説得力が出ると思ったんです。そして、彼女とパク・ヘイルなら、魅力的な組み合わせになると思いました」と、ラブコールの決め手を語った。

パク・チャヌク監督、刑事ヨンス役のキム・シニョンと和やかな表情を見せる舞台挨拶のビハインド画像はタン・ウェイ (@tangwei_mbox)の公式インスタグラムのスクリーンショット

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タン・ウェイもまた、パク・チャヌク監督作品の大ファンだったという。「彼は驚異的な考えの持ち主であり、想像以上のキャラクターを生みだします。私が演じたソレというキャラクターもそうでした。昨日、フランスのパレ・デ・フェスティバルでの公式上映が終わった瞬間、『監督、ありがとうございます。監督のおかげで、私の人生の一部が完成しました』と言ったほどです」とカンヌ国際映画祭の際に喜びを語っている。

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タン・ウェイが演じたソレは、山の滑落事故で夫を亡くした中国人女性で、捜査を担当する礼儀正しく清廉な刑事へジュンと出会い、運命のように惹かれ合っていく。『レイトオータム』に続いて韓国の監督との仕事は経験があったものの、韓国語を話すことはなかったので、この映画のために一から学び、自身のセリフのみでなく相手のセリフまでを覚えるほどの勤勉さで周囲を感心させた。タン・ウェイは「仕事を通して学ぶのが好きなので、大変だとは思いませんでした」と控えめに語り、「大変だったのは、撮影の最初の頃に使っていた翻訳マシンの方かもしれないです。最初はおもしろがっていたのですが、あまり役に立たず、必要がなくなってしまって、結局途中から使わなくなってしまいました」と振り返った。劇中、普段は韓国語で話すソレが、熱弁を振るう時に翻訳アプリを使用し、へジュンをもどかしくさせるという絶妙なシーンがある。役柄同様、タン・ウェイ自身も言語の壁を超えての出演だったようだ。

「ソレを“ファム・ファタール”にはしたくなかった」新たなる“運命の女”に魅了される！

『ラスト、コーション』では、“女性スパイが暗殺目的で誘惑する”、いわゆるファム・ファタール(男性を破滅させるミステリアスな運命の女性)を想起させる役柄で映画史に名を刻んだタン・ウェイ。しかしパク・チャヌク監督は、この映画を従来の意味でのファム・ファタールのストーリーとして語ろうとしておらず、意識的に避けようともしたという。女性を神話化したり、性的対象としてみたりする従来のファム・ファタール像というのは現代の価値観にはそぐわないかもしれないからだ。もしかすると観客は、ヘジュンを翻弄し惹きつけて止まないソレの姿に、“どうやってヘジュンを弄ぼうとするのか”と早合点をしてしまうかもしれない。そのことについてパク・チャヌク監督は「ソレは愛という言葉ですべてを正当化できないほど、本当に命をかけた愛に身を捧げている人物。彼女の姿を見ながら、“私が見間違えていたのか”と作品を楽しんでもらえるといい」と、期待感をあおった。