北条司「キャッツ・アイ」原作40周年を超えて明かす、最終回の名セリフ秘話&続編を描かない理由
「俊夫のあのセリフは実話をもとにしています」「希望の先は、皆さんに想像してほしい」
※以降、「キャッツ・アイ」原作の結末に触れる記述を含みます。未読の方はご注意ください。
必死に描き進めた同作は多くのファンの心をつかみ、キャラクター同士の掛け合いや、父親の行方などドラマ性もどんどん魅力的なものになっていった。怪盗であるキャッツアイと、彼女たちの逮捕に執念を燃やす熱血刑事の俊夫との攻防戦、キャッツアイだということを隠して交際を続ける瞳と俊夫の恋の行方に注目が集まるなか、「週刊少年ジャンプ」1984年44号で同作の連載が終了。さらに1985年6号に後日譚が掲載され、こちらが単行本の最終話として収録されている。
最終話にかけてキャッツアイの正体が明らかとなり、俊夫はそのうえで瞳への愛を再確認。後日譚では、瞳を追いかけて俊夫がアメリカ入りしたものの、瞳は病気によって記憶を失くし、キャッツアイだったことも、恋人の俊夫の存在すらも忘れてしまった…という展開がつづられ、読者を驚かせた。そこで俊夫が放つ「こんなにすばらしいことってありませんよ…。瞳ともう一度…もう一度恋ができる…」というセリフは、忘れられない名言として心に刻んでいるファンも多いはず。
後日譚を描いた経緯について、北条は「『キャッツ・アイ』の連載が終わって、次の連載を考えている時に読み切りを描いてほしいと依頼されたんですが、担当編集から『友人の話なんだけど、発熱をしたカミさんが、そのウイルスが頭に入って記憶喪失になってしまった…という人がいて。意識を回復したカミさんに会いに行ったら、あなた誰?と言われたらしい。そいつは落胆するかと思いきや“またカミさんと恋ができる”と言ったらしい。これをネタになにか描けないか?』と言われて。すごくいい話だなと思って」となんと俊夫の名言は実話をもとにしているのだという。
後日譚では以前登場したオルゴールが物語の鍵を握るが、「後日譚に話をつなげるなら、あのオルゴールを使うしかないと思った」とまるでもとから用意された伏線のような役割を担い、すばらしいゴールを迎えた。感動的な最終話を描ききった北条は、「自分としてはいい最終話になったなと思いましたが、果たして少年誌で受け入れられるのかどうか、不安ではありました。人によっては、残酷な終わり方だと思う人もいるでしょう。100%のハッピーエンドとは言えないですから」と胸の内を吐露しながら、「さらに言えば、父親のハインツ、どうなったんだよ!って話ですよね(笑)」と三姉妹の父親の行方について結末が描かれていないことについてコメント。ファンからも「続編を読みたい」というファンレターが届くこともあるというが、謎を残したままでありながらも北条は「自分としてはお父さんも見つけて、みんなで幸せに暮らしていてほしいなと感じていますが、続編を描こうと思ったことはない」と語る。
「『キャッツ・アイ』は原作誕生から40年。『キャッツ・アイ』を描いていたころの自分はもういません。40年も経てば、感性も変わるものです。それに僕の好みとして、あまり大団円というのが好きではなくて。『このラストはちょっと悲しいけれど、希望もある。その希望の先になにがあるのかは、皆さんが想像してください』と思いながら描いているところがあります。そして『キャッツ・アイ』の場合、読者の皆さんのなかには、自分なりの続きを考えている人もいると思います。こういうのを描いてくださいと思ってくださっていても、漫画家としてはそれに応えることはできません。その想像と違うものを描いても、きっと納得してもらえないでしょうし(笑)。これだけ年月が経ってしまったら、それぞれの続きを想像で楽しんでいただくのが一番いいのかなと思っています」。
北条のなかでいま、「キャッツ・アイ」はどのような作品として残っているのだろうか。「漫画を描くこと自体が自分の恥をさらしているようなものですが、『キャッツ・アイ』は恥をすべて出し切ったような作品」と微笑む。「稚拙で下手くそなところから始まって、もっといいものが描けるんじゃないかと思いながら机に向かっていました。僕は、いまだに絵やストーリー、感情表現にしても、きちんとしたものが描けないなという感覚が強くて。『次はよくなるんじゃないか』『次こそは』と感じながらも、全然思うようにいかない。でもその想いがあるからこそ、ここまで続けてこられたんじゃないかと思っています」と名作誕生の裏側には、飽くなき向上心とたゆまぬ努力が隠れていた。
取材・文/成田おり枝