ダークホースのNetflix映画『西部戦線異状なし』とは?第95回アカデミー賞のサプライズノミネーション
世界的“反戦小説”を初めて自国ドイツで映画化!
なかでも今年大躍進を見せたのは、Netflix作品『西部戦線異状なし』(配信中)。1928年に発表されたエーリヒ・マリア・レマルクの反戦小説を原作にした同作は、作品賞や国際長編映画賞を含む9部門でノミネートされている。
この原作小説は過去にも映画化されており、ルイス・マイルストン監督が手掛けた『西部戦線異状なし』(30)は第3回アカデミー賞で作品賞と監督賞を受賞。また1979年にはオスカー受賞者であるデルバート・マン監督のメガホンでテレビ映画も制作されているのだが、いずれも英語作品。物語の生まれた地であるドイツで、しかもドイツ語で映像化されるのは今回が初めてのこととなる。
舞台は第一次世界大戦勃発から3年後の1917年。17歳の青年パウル・ボイメル(フェリックス・カマラー)は、英雄になることを夢見て3人の友人らと共にドイツ帝国陸軍へと入隊する。しかし北フランスの戦地に送られるやいなや敵軍からの砲撃に見舞われ、仲間が次々と死んでいく様を目の当たりにすることに。やがてパウルは、戦地に出向くまで抱いていた高揚感を失い、戦争がもたらす絶望や恐怖に追い詰められていくのである。
メガホンをとったのは、ベネディクト・カンバーバッチ主演のドラマシリーズ「パトリック・メルローズ」などを手掛けたエドワード・ベルガー監督。脚色賞にもノミネートされたレスリー・パターソンとイアン・ストーケルが執筆した脚本を、自らドイツ語に直していったベルガー監督。ドイツ人としての視点を取り入れることを重視しながら、原作小説や過去の映像化作品への敬意を払い、原作にはない新たな描写も取り入れている。
映画冒頭から見受けられる、戦地での生々しい描写の数々。痛みや死、そして人間を変えてしまう戦争という魔物の恐ろしさ。90年以上前に書かれた物語でありながらも、ナショナリズムの増大など現代にも通じるあらゆるテーマを携えており、まさにロシアによるウクライナへの侵略戦争が起きているいまだからこそ観るべき作品に仕上がっている。
前哨戦となる全米各地の批評家協会賞ではめざましい成績をあげられなかったが、英国アカデミー賞では最多の14部門にノミネート。そしてこのアカデミー賞で大量ノミネートを獲得して一気に注目を集めることになった。すでにNetflixで配信されており、今回の主要部門ノミネート作のなかでもアクセスしやすい作品となっている。是非とも授賞式前に、心して目撃していただきたい。