迷惑系YouTuberが戦慄した“笑顔"の正体とは…新世代のホラー作家が生み出した、コロナ禍を経たメッセージ
日本のホラー映画界の未来を背負って立つ新たな才能を発掘・育成していくことを目指し、大賞受賞者には商業映画監督デビューが確約される「日本ホラー映画大賞」。2021年に行われた第1回の大賞受賞作となった下津優太監督の『みなに幸あれ』は、この賞の選考委員長を務める清水崇監督のプロデュースのもとで長編リメイク版が制作され、先日プチョン国際ファンタスティック映画祭でメリエス国際映画祭連盟(MIFF)アジアンワード・ベストアジアフィルム(最優秀アジア映画賞)を受賞。2024年に予定されている劇場公開に向け、順風満帆のスタートを切った。
現在、EJアニメシアター新宿では、第2回受賞作の上映会が7月31日(月)まで、第1回受賞作の上映会が8月1日(火)から8月3日(木)まで開催されている。「第2回日本ホラー映画大賞」でMOVIE WALKER PRESS賞を受賞した『笑顔の町』の小泉雄也監督は、「目標にしている映画監督はギレルモ・デル・トロ監督。クリーチャーものの作品や、心霊に感情移入できるようなストーリー性を持った作品が好きです。でもこの『笑顔の町』では、より直球に恐怖に振り切ってみることにしました」と語り、我々のインタビューに応えてくれた。
観客が怖さを“楽しめる”という観点から選出するMOVIE WALKER PRESS賞。一次選考を通過したクオリティの高い作品のなかから『笑顔の町』を選出する決め手となったのは、コロナ禍ならではのメッセージ性や、スマホも駆使した撮影と編集力の高さ、そしてこの作品の象徴ともいえる"マスク"を使った台詞に頼らない恐怖演出があったからだ。動画配信者の涼とカメラマンのヨシは、“バズる”動画を撮影するために山奥にある廃墟に潜入。そこで出会ったホームレスの男性に、涼は暴力を振るい、その様子をヨシに撮影させる。なんとか止めに入ったヨシだったが、帰り道に町中の人々が自分たちに“笑顔”を向けていることに気が付くのだが…。
「自主制作っぽくないおもしろいカットを撮れるように心掛けていました」
「仕事の合間に、先輩や上司と一緒になにか作品を作ろうという話になったことがきっかけでした。その“やってみよう”という心意気のなかには、やはり日本ホラー映画大賞に応募してみようという気持ちもあったのです」。作品づくりの経緯を振り返る小泉監督は、1996年生まれの27歳。普段はテレビドラマのアシスタントプロデューサーや助監督を務めるなど、映像制作の仕事に就いてそのキャリアを積んでいる真っ最中だ。
自ら脚本を執筆し、ロケ地やキャストを決めて撮影に臨むまでにかかった期間はおよそ2週間。すべてのシーンの撮影は一日で終わらせ、そこから応募締切までの1か月の間で編集作業を終わらせたのだという。「なるべく自主制作っぽくないおもしろいカットを撮れるように心掛けていました。それに撮ったカットはちゃんと使うことと、編集ではテンポを良くすることに注力しました。参加してくれたスタッフたちは、普段プロとしてやっている方々なので、想像以上に良い作品にすることができたと自負しています。こうして賞を頂けてシンプルに嬉しいですし、協力してくれた方々に感謝の気持ちでいっぱいです」。
授賞式のスピーチでは、「人間の怖いところってどこだろうかと考えた時に、笑っている顔が怖いと気付き、そこから連想してこのストーリーが生まれました」と語っていた小泉監督。「なにか劇的なきっかけがあったわけではないのですが、僕自身は良い良くないを判断する時に、良くも悪くも正直に気持ちに出てしまうタイプの人間なので、『愛想よくできる人、楽しくなくても笑顔になれる人を怖いなあ』と感じることがたまにあるんです。良いと思っていなくても、笑って許して肯定しちゃう。そういう瞬間を何度も見てきたなと気づいて、その笑顔がホラーとして見えるようにしたいとなりました」。
そのため劇中では“笑顔”が印象的に、実におぞましいものとして描写される。特に絶大なインパクトを放つのが、主人公に近付いてくる人々が着けている、歯をむき出しにした笑顔の口元がデザインされたマスクだ。「これは“笑顔”を調べていた時に、『これをつければ笑顔で人と接することができます』と謳ったマスクが売っているのを、たまたま見つけて鳥肌が立ったんです」と、コロナ禍の社会生活の変化が生んだアイテムとの偶然の出会いがあったことを明かした。