3Dリマスター版『タイタニック』は3時間14分すべてが見どころ!制作背景や注目演出まで徹底レビュー

コラム

3Dリマスター版『タイタニック』は3時間14分すべてが見どころ!制作背景や注目演出まで徹底レビュー

3Dリマスター版で堪能したい!圧巻のスペクタクル描写

世界中の人々の胸を打ったジャックとローズのロマンスを盛り上げたのが、船内での人間模様。弱者を見下すローズの婚約者ホックリー(ビリー・ゼイン)、そのボディガード役のスパイサー(デビッド・ワーナー)、家のためにローズをホックリーに嫁がせようとする母ルース(フランシス・フィッシャー)らがふたりの間に立ちはだかる。時にスリリング、時にユーモラスに描かれた彼らとの軋轢がふたりの絆をより強め、船首で風を受けるジャックとローズのあまりにも有名な名シーンなどを生みだしていく。

誰もが一度は真似したはず!あの船首での名シーン
誰もが一度は真似したはず!あの船首での名シーン[c] 2023 by 20th Century Studios and Paramount Pictures.

注目したいのがローズの立ち位置。男性支持を得られやすい作品を手掛けているイメージの強いキャメロンだが、実は彼の作品には『ターミネーター』から(もっといえば81年の現場監督デビュー作『殺人魚フライングキラー』から)一貫して“自立する女性”の姿が描かれてきた。本作の舞台である1910年代は女性の地位が低く、まだ参政権も認められていなかった時代。ジャックと出会い自由のすばらしさを知り、生き方を変えるローズの姿はいまを生きる人々の胸にも刺さるはずだ。

3Dリマスター版がもっとも威力を発揮するのは、やはりスペクタクル描写だ。冒頭の出港シーンをはじめ、船体を捉えた空中撮影などキャメロンはスケール感ある画作りをしているが、それが3D版では体感へと昇華。極めつけはクライマックスで、船体がきしみをあげて壊れだし、人々を飲み込んでゆく様は足がすくんでくるほどだ。

沈みゆくタイタニック号の最期を、その場にいるかのように体験できる
沈みゆくタイタニック号の最期を、その場にいるかのように体験できる[c] 2023 by 20th Century Studios and Paramount Pictures.

氷山と接触するのは中盤すぎ、そこから1時間以上を費やして沈没までが描かれる。空前のスペクタクルは圧巻だが、ただパニック描写が重ねられているわけではない。事故発生までの過程で、キャメロンは乗客やクルーのスタンスを示す描写をたびたび挿入。船内を格差社会の縮図として描き、クライマックスではスペクタクルと並行し賄賂を受けたクルーが救命ボートへの乗船順を変更したり、三等客室の乗客がデッキに上がれないよう通路を閉鎖したりする姿などが描かれた。そんな人間の暗部の描写が事故の悲劇をより盛り上げることになったのだ。


綿密なリサーチの果てに再現された衣装や美術セットまで。細部までじっくり堪能してほしい
綿密なリサーチの果てに再現された衣装や美術セットまで。細部までじっくり堪能してほしい[c] 2023 by 20th Century Studios and Paramount Pictures.

ロマンスやスペクタクルのほか、衣装からセットまで1910年代を再現した世界観、真っ赤な夕焼けから星が落ちてきそうな満天の星空など幻想的な自然描写、101歳のローズ(ルイス・アバナシー)の特殊メイクとは思えないリアルな肌の質感から、深海で撮影されたリアルなタイタニック号の姿など、3時間14分すべてが見どころと言ってよい。25年の時を経て帰ってきた『タイタニック』は、古びていないどころかきっと新たな発見をもたらしてくれるはず。スクリーンで見せることにこだわって映画作りを続けるキャメロン。『タイタニック』はそのこだわりがたっぷりと味わえる作品なのである。

文/神武 団四郎

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