空前絶後の”狂騒映画”『バビロン』が示唆する1920年代のリアルなハリウッドとは
今から約100年前。サイレント映画からトーキーへと換わるハリウッドの狂騒を描いた『バビロン』(公開中)は、冒頭からこれまで見たことがない衝撃的なショットが連続する。監督と脚本を担当したデイミアン・チャゼルがインスパイアされたという、単に華やかだけではない1920年代の”リアル”ハリウッドとは、いったいどんな街で、そこで何が行われていたのか?モデルになった実在のスターたちの素顔も絡めつつ、空前絶後の”狂騒映画”が示唆する当時の時代背景について紹介しよう。
まずは、オープニング。主人公のメキシコ移民、マニー・トレス(ディエゴ・トレス)が本物の象を運ぶ先は、ハリウッドの大立者が所有する砂漠の中の大邸宅。そこで昼夜を通して開かれるパーティ会場だ。会場内にはセックスとドラッグとアルコールが溢れ返り、テーブルの上にはコカインが山積みされている。若い女性から放尿されることに悦びを感じている男もいる。集まった人々の中にはサーカス団もいる。ゲストたちはみんな半裸状態で踊り狂っている。バックに流れるのはジャズだけじゃない。パーカッションをフューチャーしたアフリカ音楽や、ラテン、中東、さらに東洋のエスニックサウンドまで及ぶ。マニーは招待状を持ってないという女優志願のネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)の手を引いて、永遠と続く狂乱の中に飛び込んだ。
カメラは人だかりの中に混じり合った瞬間、あられもない姿で注目の的となるネリーの躍動美をとらえたかと思えば、部屋の隅々に設置されたスパイダーカム(スポーツ試合でよく使われる空中特殊撮影機材)が数々のセクシュアルなシーンやバルコニーから落下するダンサーたちの様子を立て続けに映し出す。大胆なカメラワークが観客を危ないパーティへと引き込む、この冒頭の数分間は見ものだ。
映画が誘うのは、撮影現場以外での俳優たちの行いを管理し、画面上でのヌードや薬物の使用を禁止した自主規制条項“ヘイズ・コード”施行直前の1920年代後半。そこでは、あらゆる堕落した行為が野放しにされていたことを伺わせるのが、このパーティシーンだ。また、当時のカリフォルニアには規制が多い東部から逃れてくる映画人たちが大量に流れつき、それを受け入れるのに充分なインフラが整っていなかったことが、劇中での撮影風景を見ればよく分かる。撮影地ばかりではない。パーティ会場となる邸宅も荒野の中に忽然と佇んでいる。そこには、椰子の木が道の両側に聳え立つ優雅なハリウッドのイメージは皆無だ。そして、そんな無秩序状態のハリウッドには映画関係者だけでなく、一攫千金を夢見る狭客やギャンブラー、鉱夫、カウボーイたちが混じっていたというのが、監督のチャゼルの解釈だ。マニーもそんな人々の中の一人で、実はマニーは当時のハリウッドで最年少のスタジオ幹部となったキューバ移民、ルネ・カルドナがモデルとされている。