映像表現も完璧『別れる決心』、恐ろしくもせつない『ボーンズ アンド オール』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、パク・チャヌクが監督を手掛け、カンヌ国際映画祭や青龍賞を受賞したサスペンスロマンス、ティモシー・シャラメが、”人を喰わないと生きられない”青年に扮した青春ホラー、実在した修道女の数奇な人生を描く鬼才の最新作という、スリリングな3本。
美しく、謎めいたラブストーリー…『別れる決心』(公開中)
かつて、「韓国で最も映画をよく知る男」と呼ばれたこともあるパク・チャヌク監督が、流れるように動くカメラでとらえた完璧な映像と編集を駆使しながら、霧に包まれたようなミステリアスな世界へと見るものを誘う今作。事件の捜査中に出会ったファムファタールに翻弄される刑事というお馴染みの設定ながら、物語の進んでいく先は容易には明らかにされず、タン・ウェイ演じる中国人女性ソレが口にする流暢ではない韓国語で示される“不確かな感情”が、刑事ヘジュンと観客を惑わす。映画の中に隠されたいくつもの謎を探ろうと、韓国では複数回にわたって劇場を訪れる観客が多かったというのも納得だ。
まじめなのにどこかユーモラスな刑事ヘジュンを演じたパク・ヘイルは、昨年、発表された今作とアクション時代劇『ハンサン ―龍の出現―』(3月17日公開)という2本の主演作によって、繊細な感情表現から爆発的なカリスマ性まで、幅広い演技が可能な俳優であることを証明。幾重にも重なる感情を表現するウェイとともに、美しく、謎めいたラブストーリーを完成させた。(映画ライター・佐藤結)
心惹かれてやまない哲学的な味わい…『ボーンズ アンド オール』(公開中)
『君の名前で僕を呼んで』(18)のルカ・グァダニーノ監督×ティモシー・シャラメが再タッグと聞けば、多くの人が速攻、飛びつくだろう。もちろん大正解!だが、本作は“いい意味で”その期待を裏切る。同時に、あの“刹那の衝動と愛”の深さも再体感させる。なにを隠そう本作は、“人喰い”が主人公の“青春ホラー逃避行ムービー”だ。
映画は冒頭、内気な女子高生が厳格な父親の目をすり抜け、初めての“女子会”に参加するドキドキなシーンで幕を開ける。ところが内気な少女マレンこそ、“喰人種”だった!繰り広げられる阿鼻叫喚。だがそこからが本題、マレンの逃避行が幕を開ける。シャラメは、同じ秘密を抱える青年リーとして登場。互いを無条件で理解しあえる2人は案の定、次第に惹かれあうが、“人を喰わねば”生きられない2人の道中は、欲望や衝動、迷いと葛藤、後悔と開き直りの繰り返しだ。さらに、エキセントリックな同族に次々と出くわす。とりわけマレンに執着する老人、マーク・ライランス演じる老人サリーのキモさには度肝を抜かれる。
衝動に抗うか、欲望に肯うか。悲しき宿命を背負った2人に、居場所はあるのか。怖いがせつなく、悲しみがフッと胸をよぎり、心惹かれてやまない哲学的な味わい。ついでにシャラメ、イカレてイカして、やっぱり最っ高!(映画ライター・折田千鶴子)
教会内に差し込む光の神々しさに心奪われる…『ベネデッタ』(公開中)
『エル ELLE』(16)で世界の度肝を抜いた鬼才ポール・ヴァーホーベンの最新作に、またもや記憶に残るヒロインが登場。本作は17世紀の実話から着想を得た、信仰と権力&狂言と奇蹟が渦巻くセクシャル・サスペンスだ。“イエスの花嫁”として神の意思を伝える聖女となるも、同性愛の罪で裁判にかけられた修道女ベネデッタの数奇な人生を刺激的に描きだしている。
幼い頃より聖母マリアやキリストのビジョンをたびたび見ていた信仰心のあついベネデッタ。その身に聖痕が顕現した彼女は、民衆の支持を得て修道院長の座に登り詰める。その奇蹟を利用しようとする者、逆に疑惑の目を向ける者、それぞれの思惑が絡みあい血にまみれた権力争いが展開する一方、純真無垢だったベネデッタが修道女バルトロメアと禁断の愛へと突き進んでいく様子に夢中にさせられる。また、予期せぬ悲劇によって運命を狂わせていく元院長に扮した大女優シャーロット・ランプリングの怪演も印象的だ。濃厚なエロスとバイオレンスに彩られた本作において、狂気の香りをにじませつつも格調高さを与える一助となった。撮影はフランソワ・オゾンとのタッグで知られるジャンヌ・ラポワリー。おごそかな教会内に差し込む光の神々しさに心奪われる。(映画ライター・足立美由紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼