80年代カルチャー解説や、劇中に登場する“詩”と”映画”を深掘り。劇場パンフレットで『エンパイア・オブ・ライト』の余韻に浸る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
80年代カルチャー解説や、劇中に登場する“詩”と”映画”を深掘り。劇場パンフレットで『エンパイア・オブ・ライト』の余韻に浸る

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80年代カルチャー解説や、劇中に登場する“詩”と”映画”を深掘り。劇場パンフレットで『エンパイア・オブ・ライト』の余韻に浸る

「007」シリーズや『1917 命をかけた伝令』(19)などで知られる英国出身の名匠サム・メンデス監督が、『女王陛下のお気に入り』(18)のオリヴィア・コールマンを主演に迎え、サーチライト・ピクチャーズと初めてタッグを組んだ『エンパイア・オブ・ライト』が本日より日本公開を迎えた。

舞台は1980年代初頭のイギリス。静かな海辺の街マーゲイトにある映画館“エンパイア劇場”で働くヒラリー(コールマン)は、つらい過去を経験したことから人との関わりを避けて暮らしていた。彼女の前に現れたのは、夢を諦めて映画館で働くことを決めた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)。明るく前向きで好奇心にあふれたスティーヴンに、ヒラリーは少しずつ心を開いていくのだが、時代の荒波が2人に想像もつかない試練を与えることとなる。

コロナ禍でロックダウンを経験したメンデス監督が「映画館がなくなってしまうのではないか」という懸念を抱いたことからスタートしたという本作。1965年生まれのメンデス監督にとって多感な少年時代を過ごした1980年代を背景にした劇中には、当時の社会情勢やカルチャー、そして現代にも通じるさまざまなテーマが散りばめられている。上映劇場で発売されるパンフレットに掲載されたインタビューを読むと、メンデス監督が本作に込めた想いをより深く知ることができるだろう。

【写真を見る】サム・メンデス監督の映画館への愛が詰まった『エンパイア・オブ・ライト』パンフレットの内容を紹介!
【写真を見る】サム・メンデス監督の映画館への愛が詰まった『エンパイア・オブ・ライト』パンフレットの内容を紹介![c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「ロックダウンによって、子どものころの記憶が頭に浮かんできました。この物語は、私の心に焼き付いている思い出を下敷きにしています」。そう語るメンデス監督は、自身の母の姿を主人公のヒラリーに投影し、当時のサッチャー政権下での社会情勢に感じていた“しこり”のようなものをスティーヴンの姿を通して表現したことを明かす。そしてもちろん、映画館や映画への熱い想いについても。

さらにメンデス監督は、近年アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』(18)やポール・トーマス・アンダーソン監督の『リコリス・ピザ』(21)など、著名な監督たちが自身の原体験をもとにした映画を作ることが増えている流れに触発されたことを告白。個人的な事柄を映画としてさらけ出すことの難しさを語りながら「結果的にやった甲斐があったと感じています。作品の完成直後は客観的に観ることができなかったのですが」とも振り返っている。

『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンが主人公を演じる
『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンが主人公を演じる[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

本作のパンフレットは、映画ファンにおなじみの「MOVIE WALKER PRESS 劇場用パンフレットムック」の「SEARCHLIGHT PICTURES issue vol.24『エンパイア・オブ・ライト』」として発売される。先述のメンデス監督のインタビューをはじめ、コールマンやウォードのインタビュー、さらに英国を代表する名優であるトビー・ジョーンズとコリン・ファースのツーショットインタビューに加え、本作で描かれる時代背景や映画的な魅力を様々な角度から知ることができるコラムやレビューも多数掲載されている。

エンパイア劇場で働く黒人青年のスティーヴン役には英国の新鋭マイケル・ウォード
エンパイア劇場で働く黒人青年のスティーヴン役には英国の新鋭マイケル・ウォード[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

まずブロードキャスターであるピーター・バラカンのコラムでは劇中の文化的背景などの解説が描かれており、鑑賞前に読んでおくのもおすすめの内容となっている。他にも著述家/プロデューサーの湯山玲子によるレビューでは主人公ヒラリーの内面へと迫り、英米文学翻訳家の三辺律子のレビューでは劇中に登場する詩の解釈・解説が。また映画ライターの斉藤博昭によるコラムでは、名カメラマンのロジャー・ディーキンスの撮影術についての分析を通して“映画マジック”の数々が紐解かれており、映画ライターの清藤秀人のレビューでは古き良き映画館の魅力が語られている。

そしてさらに、劇中に登場する『チャンス』(79)や『炎のランナー』(81)などの映画解説も掲載されているので、映画ファンにとっては貴重な資料となるはず。ここで紹介されている映画を観れば、登場人物たちが経験した1980年代初頭の空気感を映画を通して味わうことができよう。それもまた映画の醍醐味のひとつ。巻末に掲載されているサーチライト作品の最新情報と併せて、今後の映画ライフ充実に一役買ってくれること請け合いだ。

名カメラマン、ロジャー・ディーキンスの映画マジックが詰まった映像美は必見
名カメラマン、ロジャー・ディーキンスの映画マジックが詰まった映像美は必見[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

来たる日本時間3月13日に授賞式が行われる第95回アカデミー賞では、撮影賞にノミネートされている本作。映画館へのラブレターとも呼ぶべき作品は、やはり映画館のスクリーンで鑑賞してこそ。映画の余韻に浸りながら劇場パンフレットを読めば、作品への理解が深まるだけでなく、きっともう一度“エンパイア劇場”へと足を踏み入れたくなることだろう。

文/久保田 和馬

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