存在に魅せられる『Winny』、ジワジワ泣ける『オットーという男』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ファイル共有ソフト“Winny”を巡る実際の事件を、東出昌大主演で映画化したドラマ、トム・ハンクスが、いつも不機嫌で近寄りがたい“町一番の嫌われ者”に扮する人間ドラマ、爆発寸前の仮設トイレに閉じ込められ、脱出に奔走する男の姿を描くスリラーの、ドキドキする3本。
2人揃って、演技よりなにより、存在に魅せられる…『Winny』(公開中)
東出昌大の快進撃が止まらない。『とべない風船』(22)でも鬼気迫る表情を見せていたが、本作では役作りのために18kg増量。演じている実在の人物、金子氏本人と見紛うような瞬間が劇中、何度もある。東出の金子さんはとにかくチャーミングで憎めない。当時から2ちゃんねるの人々に愛されていた人柄が偲ばれる。相棒である壇弁護士役の三浦貴大とのタッグがまたいい相乗効果となっている。のほほんと捉え所のない天才肌の金子。そんな彼を敬愛し、なんとか助けたい一心で、なによりこの国の未来を憂い、奔走する熱い男、壇。2人揃って、演技よりなにより、存在に魅せられ、Winny事件のことを知らなくても、物語に引き込まれてしまう。
映画や音楽の定額配信サービスが当たり前になったいまでは信じられない、少し前に起きた事件。なぜ、天才は国家権力に狙われてしまったのか。テンポよくドラマチックな展開でありながら、歴史に寄り添い、実に丁寧に作られている印象。(映画ライター・高山亜紀)
オリジナルと一味違う“現代のファンタジー”的な味わい…『オットーという男』(公開中)
日本でも話題になったスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』(16)のリメイクで、人物設定から小さなエピソードに至るまで、かなりオリジナル版に(というより多分フレドリック・バックマンの原作小説に)忠実。それをハリウッド版らしく分かりやすい濃い目の味付けにし、かつトム・ハンクスが“町一番の嫌われ者に”というキャッチーな見どころを加え、オリジナル版とはまた一味違う“現代のファンタジー”的な味わいを醸す。
軸となるのは、口うるさくて偏屈なオットー(ハンクス)という男が、愛する亡き妻のもとへ旅立とうと何度も企てる自殺。そのたびに、隣に引っ越して来た賑やかな一家が意図せず乱入し、阻止してしまう。この両者のちぐはぐな遣り取りが笑いを生み、オットーの“実はイイ奴”な面を上手く引きだしていく。同時に、自殺を試みるたび走馬灯のように人生が駆け巡る構成も、やっぱり上手く効いている。世知辛いいまの時代、これくらいのお節介や濃い人付きあいを求めているのかも、なんて思ってしまうほどジワジワ泣けてくる。ちょっと疲れている人に、是非おススメしたい優しい映画だ。(映画ライター・折田千鶴子)
全編に漂うブラックなユーモア…『ホーリー・トイレット』(公開中)
ドイツからハイテンションなスリラーがやってきた。甘美な夢を見ていたフランクが目を覚ますと、なぜかそこは工事現場らしき場所で倒れた簡易トイレの中。しかも壁から突きでた鉄筋が右腕を貫通して身動きできない。痛みや恐怖と戦いながら、フランクは必死に脱出を試みるが…。
構成は典型的なシチュエーションスリラーで、断片的なフラッシュバックで状況を説明していく展開も定石どおり。ただしスリルで押しまくるほかの作品と違うのが、全編に漂うブラックなユーモア。あの手この手で逃げようとするフランクを彼の“心の声”が茶化したり、人目を引くため煙を出そうとしたらトイレが火事になりかけ慌てて汚水をすくって消火をしたり…。監督はテレビ畑出身で長編映画はこれが初というルーカス・リンカー。下品で怖くて笑えちゃうなんでもアリな作風は、デビュー当初のサム・ライミやピーター・ジャクソンにも通じるやんちゃさだ。時おり顔を出す日本語も面白い。1人で観るよりスクリーンでみんなで騒いで楽しみたい作品だ。(映画ライター・神武団四郎)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼