“がむしゃらにやりきる”才能は一級品。「わた婚」で映画単独初主演を飾る、俳優・目黒蓮の歩みを振り返る
目線や表情で感情を丁寧に表現する、目黒の芝居の醍醐味
役者としての目黒の知名度と人気をさらに引き上げたのが、勘違いから始まったピュアなラブコメディ「消えた初恋」(2021年10~12月放送)。同名人気漫画の実写化において、なにわ男子の道枝駿佑とともに前評判以上の好演を見せ、同作は海を超えるヒット作となった。目黒が演じたのは、真面目で硬派、ポーカーフェイスの井田浩介。無自覚に相手をときめかせる、罪な役どころだった。恋愛に疎く、恋心に鈍感な井田。そんな彼が、青木(道枝)の思いにまっすぐ向きあおうとする実直さに、視聴者は心を動かされた。
物語全体を通し、ともすれば井田自身も気付いていないような青木への感情の変化を、目黒はあたたかく演じていたように思う。井田にとって、青木が少しずつ大切な存在になっていること、“想う相手”になっていることが、その優しい微笑みや瞳から確かに感じられたのだ。愛おしい相手、大切な相手を思う表情と、優しく見つめる笑顔。それは、目黒の芝居の醍醐味といえよう。
様々な役を経て、いま魅せる“目黒蓮”とは
そして昨年、ゴールデンプライム帯ドラマ「silent」(2022年10~12月放送)に出演し、中途失聴者の青年、佐倉想を演じた。本作は第1話から大きな話題となり、放送後の現在もなお多くのファンがロケ地を訪れるほどの社会現象に。涙の多い作品ではあったが、想については不思議と、笑顔のほうが強く印象に残っている。高校時代と同じジョークを飛ばす等身大の姿や、妹(桜田ひより)との何気ない会話――見ているこちらの顔が思わずほころぶほど、想は優しい顔で笑う青年だった。なにより、ヒロイン・紬(川口春奈)の一挙手一投足を見つめる穏やかな瞳の温度。目黒自身が愛情深い人なのか、あるいは役をまっとうし、役として生きているからなのか。きっとその両方なのだろうと思うが、端正なルックスからは想像もつかないほど、ぬくもりがにじみ出る役者だと、過去の出演作を重ねながら改めて感じたものだ。
こうして出演作の一部を振り返ってみると、朴訥で不器用、けれど優しく、静かな強い意志を持つ――ステップアップのここ数年で、目黒はそうした役を多く演じてきた。観る者は、そんな目黒演じるキャラクターに共感し、ときにその涙に心を痛め、その瞳に胸をときめかせる。そんないま、人々はどんな目黒蓮を見たいと思うのだろう。考えをめぐらせてみたところ、今回演じた「久堂清霞」こそ、まさにその答えではないかと思うのだ。これまで目黒が演じてきた役、養ってきた表現、すべてが詰まった集大成でありつつ、アクションという新境地も見せる。単独初主演という大きな節目にふさわしい作品に恵まれたと思う。
決して器用ではないところ、それでも、相手とまっすぐに向きあうところ、愛する人や仲間を心の奥で強く思い、守りぬくところ、そして美世を見つめる瞳、大切そうに触れる手――その愛情深さのすべてが、役者・目黒蓮の培ってきたものであり、彼が持つ魅力だ。強いけれど脆い。脆いけれど強い。スーパーマンではない、美しいだけでは生きられない“人間”を、目黒はなりふり構わず演じてきた。今回もそうだ。
やってくれる男「困った時の目黒」
さらに本作では、心を許した仲間に見せる無邪気な笑顔も印象深い。作中、清霞の部下が美世につぶやく“ある台詞”。これにはおそらく多くの人が膝を打つだろう。あまりにも清霞を、さらには役者としての目黒蓮を形容するにふさわしい言葉だった。
「困った時の目黒」という言葉を、ファンは耳にしたことがあるかもしれない。ジャニーズJr.時代、「滝沢歌舞伎 2017」で怪我をしたキャストの代役として急遽、一晩で振りを覚え、翌日の公演に立ったエピソードからも、その高いプロ意識と、“やってくれる男”ぶりは一貫している。テレビ番組をはじめ、素顔の目黒を見ていると、おそらくだが器用なほうではない。けれど“がむしゃらにやる”、“やりきる”才能は一級品だ。それは誰もが備えているものではなく、誰もが発揮できるものでもない。そして、全力でやるからこそ伝わるものがあるのだと、目黒を見ていて思う。
Snow Manとしてのデビュー以降、セルフブランディングに励み、経験の少ない芝居にも真摯に取り組んできた目黒。求められたことに応える姿勢は、「滝沢歌舞伎 2017」のエピソードから、そして役者としての異例の急成長からも見て取れる。それでも、「もっともっと」とその進化を見ていたくなるのは、彼が期待以上を返し続けた実績ゆえのこと。
申し訳ないほどにいま、日本中が君に注目している。
文/新亜希子