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セキュリティ基盤の専門家たちが抱いた映画『Winny』への想いとは?「金子勇という栄光なき天才を知ってほしい」

インタビュー

セキュリティ基盤の専門家たちが抱いた映画『Winny』への想いとは?「金子勇という栄光なき天才を知ってほしい」

「自分が見てもリアルの法廷だと感じる作品にしたいと思って意見を言わせてもらいました」(壇俊光弁護士)

続いて、村井教授が、裁判の法廷で証言した当時のことをこう振り返る。「証言内容について、こちらが言いたいことは決まっていました。それは、Winnyが大事なソフトウェアであること、こういう事件が起きてしまうと、今後、技術の発展に支障が出るということです。劇中で金子さんがプログラムを直させてほしいと言ったのに、それができなかった。もしも修正できていたらこんな問題にはならなかったのにと、ご本人がすごく悔しがっていたのが印象的でした」と言うと壇弁護士もうなずく。

理不尽な逮捕に、金子や弁護団は様々な証言をぶつけていく
理不尽な逮捕に、金子や弁護団は様々な証言をぶつけていく[c]2023映画「Winny」製作委員会

本作では、法廷シーンのリアリティにもとことんこだわっているが、壇弁護士は「日本でも刑事裁判を扱った映画多いんですが、そのほとんどは、私から見たら実際の刑事裁判と違い過ぎておもしろくないんですよねぇ。自分の扱った事件で、今後、何度も見る映画になるので自分が見てもリアルな法廷を感じる映画にしたいと思って、意見を言わせてもらいました。裁判所のセットの質感についてもこだわっています」と話し、実際に松本監督を東京地裁に連れていって確認をしたという。これに対し実際に「Winny事件」で証人となった村井教授も、映画を観て「リアルだった」と感心したそう。

「包丁が殺人に使われたら、包丁という道具を作った人が捕まるのか?」(中村修教授・慶應義塾大学)

では、識者たちは「Winny事件」についてどう受け止めたのだろうか。慶應義塾大学環境情報学部の中村修教授は、「エンジニアやプログラマーが、この映画をどう受けとめるのかが気になります。僕ら『WIDE Project』は、どちらかというと、いつも警察が正しくないというスタンスで活動してきているけど、いまは法律と技術の関係性が非常に難しくなっているので」と課題を挙げる。「どこかのワークショップで『エンジニアは、やっていいと言われたらやるけど、やっていいかどうかが分からないと言われたらできません』という話が出た時、東大の有名な法律の先生が『いやいや。法律は議論する最初の前提を定義するだけで、そこからディスカッションをしていけばいい。やりたいことはやって、その後、裁判で闘えばいい』と言われましたが、それってどうなのかと。僕らには壇さんがついているから、いざとなったら壇さんが闘ってくれるけど、実際にはなかなか難しいです」。

「Winny事件」で金子勇の弁護を担当した壇俊光弁護士
「Winny事件」で金子勇の弁護を担当した壇俊光弁護士

これに対して壇弁護士は「刑法の世界では、なにをしたらいけないかと、事前にわかるものでなければならないと言われますが、学者の先生たちは“撃ち漏らし”が大嫌いなんです。法を回避されるのが大嫌い。『漏れがあったら、法律を新しく作ればいいんじゃないか』と言うけど、それもできないから、結局は総合判断に従えとなり、そうなると事前になにをしたらいいのかがわからなくなる。まさに刑法と技術者とのせめぎあいです」と告白した。

さらに中村教授は、「Winny事件」における問題点について「包丁が殺人に使われたら、いわゆる包丁という道具を作った人が捕まるのかと。すなわち『Winny事件』において、ソフトを作った人が逮捕されてしまっていいのかというのが大きな論点ですが、そこの答えは相変わらず見えないです」と切り込む。

「WIDE Project」の代表を務める江崎浩教授
「WIDE Project」の代表を務める江崎浩教授


この問題に対して、東京大学大学院情報理工学系研究科の江崎浩教授は「この映画は、クリアに『こうである』と問題を言い切ってなくて、観た人にゆだねるという作りになっているところが非常にいいと思いました。僕が学部の講義でP2Pについて話す時も、技術面でほぼ完成形に近いのが『Winny』と言ったうえで、やはり警察や法律が関係してくることも説明します」と語り、本作を大学の講義で今後使っていきたいこと話した。

■WIDEプロジェクト
1988年に発足。「地球上のコンピュータやあらゆる機器を接続し、人や社会の役に立つ分散システムを構築する。そのために必要な課題と問題点を追求する」を基本理念に、企業や大学など100を超える団体が参加している。ネットワーク技術など幅広い分野において「研究」と「運用」の両面で取り組んでいる。

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