ニコラス・ケイジが自分自身を演じる『マッシブ・タレント』のオマージュ元ネタをチェック!
随所に散りばめられた『フェイス/オフ』的エッセンス
ハビがお気に入りとして挙げている作品が、互いに顔を取り替えたFBI捜査官と冷酷なテロリストが、死闘を繰り広げるジョン・トラボルタとの共演作『フェイス/オフ』(97)。ケイジは悪党トロイを怪演し、顔を取り替えてからは、見た目はトロイ、中身はアーチャーというキャラクター像を巧みに体現し、その演技力の高さを見せつけた。
そんな本作で、ケイジに負けず劣らず存在感を放っていたのが、トロイがぶっ放す金ピカの2丁拳銃で、『マッシブ・タレント』ではハビのコレクションとして、ケイジのレプリカ人形の手に握らされた形で登場。大興奮のニックはその後、この銃を握りしめると「俺の銃だ」と絶叫し、大活躍することに。
ニックとハビが靴を取り替えるシーンに象徴される”2人の男がなにかを交換”する点や、潜入捜査ものという要素、仕事ばかりで家庭を省みない男が改心していく物語なども、『フェイス/オフ』からの影響を大きく感じさせる。
『ザ・ロック』の危険な毒ガス兵器も登場!
ハビの誕生日パーティのためスペインへと足を運ぶニックが、プライベートジェットの中で観ているのが『ザ・ロック』(96)だ。マイケル・ベイ監督がメガホンを握り、アルカトラズ島を占拠したテロリストと特殊部隊の戦いを描く同作で、ケイジは化学兵器のスペシャリストで、実戦はてんでダメなFBI捜査官グッドスピードを演じた。
『マッシブ・タレント』では映像が登場するほか、ハビの部屋には“青い真珠のネックレス”こと毒ガス兵器のプロップがコレクションとして並べられており、劇中の鍵を握るアイテムとの再会にニックも大興奮。また、CIA職員の会話でマーティン(アイク・バリンホルツ)の口からニックの代表作として名前が挙げられたが、同じくCIAのヴィヴィアン(ティファニー・ハディッシュ)は『月の輝く夜に』(87)を挙げていた。
ニックの胸中を表す重要作『不機嫌な赤いバラ』
誕生日パーティのスピーチで、ハビが不仲だった父との関係をつないでくれた作品として、名前を出したのが『不機嫌な赤いバラ』(94)。この映画は、元大統領の未亡人と彼女の身辺警護をすることになったシークレットサービスの青年ダグとの関係を描いたコメディドラマだ。
ハビから演じたダグについての言葉を求められたニックは「彼は板挟みだった」と、ハビを信じていいのか?いけないのか?と自分が現在抱いている心境をキャラクターに投影して吐露。その後も部屋に戻って『不機嫌な赤いバラ』を観直しており、重要な1作として登場した。
『60セカンズ』『リービング・ラスベガス』などオマージュ祭り!
これらの作品以外にも細かなネタが随所に放り込まれている。薬でハイになったニックとハビが、自分たちを監視している(と勘違いしている)敵から逃げようと車で走り去るシーンでは、ハビから伝説的な車泥棒を演じた『60セカンズ』(00)での演技を引き合いに出され、ニックはハンドルを握るのだが…。
ハビの豪邸にヤケクソで訪れる傷心のニックが、不躾な質問にうんざりしてプールへと飛び込み水中で酒を飲むシーンは、遅れて様子を見に来るハビを含め、ケイジがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『リービング・ラスベガス』(95)の一幕そのもの。
またクライマックスでニックが、バックルにタランチュラがこしらえてあるベルトについて「Not the bees(蜂はやめてくれ)」と衣装係に伝えたというエピソードを語るが、これは不思議な風習が根付く孤島を舞台にした『ウィッカーマン』(06)での、蜂を使った拷問シーンへのオマージュだ。
さらにハビのコレクションルームには先述したもの以外にも、妻の死をきっかけに狂ってしまう男を演じた『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(18)のチェーンソーや「ナショナル・トレジャー」シリーズからポスターや金塊、『赤ちゃん泥棒』(87)の哺乳瓶やおむつ…と枚挙に暇がないほどのアイテムが登場する。
映画やケイジの過去作やキャリアの浮き沈みを知っているとより楽しめる『マッシブ・タレント』。今回紹介した以外にどんなオマージュが隠されているか?その点にも注目して観てほしい。
文/サンクレイオ翼