ちょっと珍しい国の女の子もの2本。作家・松久淳が語る『ガール・ピクチャー』と『セールス・ガールの考現学』

コラム

ちょっと珍しい国の女の子もの2本。作家・松久淳が語る『ガール・ピクチャー』と『セールス・ガールの考現学』

全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」創刊時より続く、作家・松久淳の大人気連載「地球は男で回ってる when a man loves a man」。今回は、フィンランド映画『ガール・ピクチャー』(公開中)と、モンゴル映画『セールス・ガールの考現学』(4月28日公開)を紹介します。

【写真を見る】少女たちが出会う運命の相手とは…?(『ガール・ピクチャー』)
【写真を見る】少女たちが出会う運命の相手とは…?(『ガール・ピクチャー』)[c] 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

珍しい国の見どころ満載なガールズムービー2本

今回は2本の女の子もの、しかもどちらもちょっと珍しい国の映画です。

1本目はフィンランド映画『ガール・ピクチャー』。
スムージースタンドで働くミンミとロンコ。ロンコは男に誘われてもセックスに興味が持てず、いつもうまくいかない。ミンミは知り合ったフィギュアスケーターのエマと熱烈な恋に落ちていく。そんなよくある女の子たちの恋と友情と行き違い、憤りや焦りや悲しみ、そして成長の物語ではあるんですが、これがもうたまらなくて。

ミンミとエマの最初のキスシーンとか、ミンミとロンコが大げんかのあと、抱き合って泣き崩れるシーンとか、あるいは3人がただ楽しそうにソファで大笑いしてるシーンとか、なぜかそんななんでもない描写に、ぽろぽろと涙があふれてきてしまいました。

北欧の女の子という、人間としてすべてが真逆の極東に住むおじさんの私ですので、共感というより、ただ彼女たちの生きる姿に胸が締め付けられてしまったんだと思います。極東のおじさん、彼女たちに気持ち悪がられないことを祈るばかりです。

フィンランド映画は2月公開の『コンパートメントNo.6』というのもありましたが(こちらもすてきな映画でした)、もう1本は、おそらく私の人生初のモンゴル映画『セールス・ガールの考現学』。

サロールがヘッドフォンをするシーン。BGMと一緒に歌手も登場!?(『セールス・ガールの考現学』)
サロールがヘッドフォンをするシーン。BGMと一緒に歌手も登場!?(『セールス・ガールの考現学』)[c] 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures

これが予想外のおしゃれな1本。バナナの皮で女の子がコケるオープニングから、ヒロインが歩くウランバートルの風景まで、カメラワーク、構図、色彩とすべてがすごくスタイリッシュなのです。

私、片手の数ほどしか海外に行ったことないのですが、でもそのうちの一つがなぜかモンゴルです。なので本作も懐かしく感じるかと思ってたのですがとんでもない、その素朴だった20年前と全然違う、かっこいいウランバートルが映しだされていました。

主人公は理系女子大生サロール(原子力工学専攻)。怪我した友人に頼まれてアダルトグッズショップでバイトすることになり、そこで出会う人々、とりわけオーナーの裕福な女性との交流で成長していくという話。
親のいいなりで、あらゆることに受け身で地味なサロールが、しだいに見た目も内面もあか抜けていく様がお見事です。


基本的に静かで抑えたトーンの、ときにコントっぽいシーンの積み重ねで物語は進むのですが、(偶然ですがフィンランドの)アキ・カウリスマキっぽさを感じたりもしました。

でも、驚いたのが楽曲のシーン。サロールがヘッドフォンをすると聴いてる曲がそのまま映画のBGMになる場面がいくつかあるのですが、よくある演出だと思って観てると、カメラが引くとそこに、本当に歌ってる男が突然登場。
「おまえが歌うんかい!」
ダウンタウンの往年のネタのようにつっこんでしまいました。そんなシーンが3回あるのですが、モンゴルでは有名ミュージシャンだったりするのでしょうか。もしかして笑いどころじゃなくて大まじめだったのかしら。

と、とにかく演出面でも見どころ満載の拾い物でした。そして自分の道を踏みだしたサロールの笑顔に、観た人全員やられちゃうこと請け合いです。


文/松久淳

■松久淳プロフィール
作家。著作に映画化もされた「天国の本屋」シリーズ、「ラブコメ」シリーズなどがある。エッセイ「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と溪谷社)が発売中。

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