【リレー連載第1回】棚橋弘至が「聖闘士星矢」から学んだ生き方「諦めずに自分を信じて強く立ち向かっていく。現状に満足せず、上を目指す」
「プロレスラーになって初めて人に嫌われるという経験をした」
コスチュームにも常に「見られている」という意識を持っている。「ヤングライオンは黒タイツが定番です。海外遠征で帰ってきたら色を変えるのが通例だけど、僕は入門して半年で勝手に赤のハーフパンツに変えちゃって。青銅聖闘士から白銀聖闘士(シルバーセイント)に自分でランクアップして、いまはもう黄金聖衣(ゴールドクロス)を纏った黄金聖闘士(ゴールドセイント)になっています。今日の髪型もちょっとミロ(真紅の毒針をもつ蠍座の黄金聖闘士)っぽいでしょ(笑)」と自身と「聖闘士星矢」の世界観に通じる部分を解説。「当時のジャンプでは友情、努力、勝利をテーマに泥臭さがあったけれど、『聖闘士星矢』はカッコよさが上回る物語。少年誌ジャンプでは異質な漫画だったけれど、僕はそのカッコよさに魅了されました」と少年の時代に思いを馳せた。
棚橋のプロレスラー人生は「ターニングポイントだらけ」と苦笑い。「普通は1回でいいはずなのに、ターニングポイントが多すぎて困ります。ひとつ挙げるなら2009年6月の大阪府立体育会館。ブーイングで始まった中西(学)選手との試合が、終了後に歓声に変わりました。チャンピオンになって3、4年はずっとブーイングされてきた僕が、応援されるようになったんです。風向きが変わったのを実感しました。チャンピオンなのにブーイングされるなんて、正義と悪の軸のバランスを1人でぶっ壊していたわけだから、居心地がいいはずない。棚橋も一生懸命に頑張ってることが伝わったのかな、頑張ってきてよかったと思える瞬間でした」とブーイングに苦しんだ過去をしみじみ語る。ブーイングは棚橋にとって人生で初めての経験だった。
「小さいころから勉強も運動もできて(笑)、両親に愛しんで育ててもらって、人に嫌われた経験はありませんでした。『弘至くんはいい子だね』と言われすくすくと育った僕が、プロレスラーになって初めて人に嫌われるという経験をして。それはもうすごいストレスで、かなり堪えました」と過去のこととしながらも、寂しそうに肩を落とす。
この経験を踏まえ棚橋は人前に出る職業を目指す人にアドバイスがあるという。「人前に出るということは、応援もされるけれど、批判もされます。その覚悟は絶対必要です。いまの時代、SNSも普及して、いいことも悪いことも言われるなかで育っていかなければなりません。でも、そんな時には棚橋方式を採用してください」とニヤリ。「いいことだけを見て、それ以外は見ないこと」、それが棚橋方式だ。
「SNSは避けては通れないから、うまく使って楽しんでほしいです。棚橋方式を採用すればダメージはゼロです。避けられるダメージは避けたほうがいい(笑)。『聖闘士星矢』でどんどん格上の相手が現れるように、人生には次々と壁が立ちはだかります。だけど、星矢のように諦めずに自分を磨いて強くなっていけば、必ず未来は開けます。僕もそうでした。諦めずに自分を信じて強く立ち向かっていく。現状に満足せず、上を目指す。そういう生き方をしてほしいし、『聖闘士星矢』からそんな生き方を学んでほしいです」。
プロレスラーになるべくして生まれた男、棚橋。星矢の人生とあまりにも共通点が多いターニングポイントだらけの棚橋のプロレスラー人生からは、経験者としての重み、説得力を感じずにはいられない。
取材・文/タナカシノブ