“マリオ生みの親”宮本茂が語る『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に込めた想い「思い出に寄り添いつつ、初めての方も楽しめるように」
「異なるタイトルの要素を融合させるのはリスクもありました」(クリス)
――「スーパーマリオ」シリーズから1作に絞らず、様々なタイトルの要素を盛り込んだストーリーになっていました。このような構成になった理由や経緯を教えてください。
宮本「最初にイルミネーションさんから大胆なご提案をいただきまして。『こんなにたくさんの要素は収まりきらないんじゃないか?』と心配していたのですが、見事に盛り込んでくれて感心しました。逆に任天堂の方が、『これとこれを同時に入れるのは良くないんじゃないか…』など、提案してもらったアイデアに対して、保守的に捉えてしまうところがありました。でもマリオを、『スーパーマリオ』シリーズのキャラクターの一人としてではなく、“マリオ劇団”と言いますか、“任天堂タレント集団”に所属する一人のタレントとして考えれば、保守的になるより挑戦させた方が絶対に楽しいと思い、このような形で展開することになりました」
クリス「同じシリーズの作品とはいえ、異なるタイトルの要素を融合させるのはリスクもあり、本当にうまくいくかどうかは、話し合いだけではわからないところもありました。そこで我々は、まずは実際に作ってみて、どのような化学反応を起こすか確認する形で実践をしてみました」
――NGになる可能性もあるのに、先行して映像を作られたということでしょうか。
クリス「実際に作ることで新しい発見があることはわかっていたので、そこは恐れずにどんどん挑戦しました。映画を観てくれるお客様に、“新しい映像体験”を楽しんでほしいというのもありますが、イルミネーションのメンバー自身が、『自分たちの想像を超える驚きを体験したい』というのが、挑戦を続ける一番の理由なので。我々もわくわくしながら、映像制作に取り組ませてもらいました」
宮本「演出面でも、目から鱗といいますか、非常に感銘を受けたシーンがいくつもあります。例えば、作中でマリオたちがカートに乗るシーンがあるんですけど、偶然立ち寄った場所に、それぞれのキャラクター用にカスタムされたマシンが用意されているんですよ。でもそれって、ドラマとして考えると都合が良すぎないか?と思えてきて。そのことを相談したら、『スーパーマリオメーカー』のエディットシーンを提案されました。突然、専用のBGMが流れて、マシンのエディット画面に切り換わって。そこで乗り込む車両の調達が完了したら、何事もなかったかのように物語が再開するという展開です。ゲームのルールに則ってその場でマシンを作ることは、すごい発明だと思いました。
中途半端な説明だと、ただただテンポが悪くなるだけですが、ここまで思いきってゲームの要素を『ドン!』と出せば、ゲームファンの方はもちろん、初めてシリーズに触れる方にとってもわかりやすく、むしろそこからの展開が受け入れやすくなる。このような思いきった演出は、任天堂のゲームならではの明るく楽しい世界観ともマッチしているので、大勢の方に楽しんでいただけると思います」
オープニングから、すでにゲーム内のBGMや効果音が使われています
――作中では「スーパーマリオ」シリーズの曲に加え、1980年代のヒットソングが多数使用されていました。選曲の狙いを教えてください。
クリス「本作を通して、鑑賞した方たちが初めて『スーパーマリオ』シリーズをプレイした際の思い出”を刺激したいという想いがありました。そこで、『スーパーマリオブラザーズ』が発売された1980年代の曲を多めに盛り込んでみました」
宮本「音楽の面ではもう1点、こだわったところがあります。オープニングでユニバーサル・ピクチャーズ、イルミネーション、任天堂の順にクレジットが表示されるんですけど、お客様にはこの時点から徐々に、「スーパーマリオ」の世界に入り込んでいただきたいので、ここからすでにゲーム内のBGMや効果音が使われているんです。イルミネーションのクレジットでは『マリオカート』の効果音が、任天堂のクレジットでは懐かしい電子音が流れて、作品の世界へと誘う形になっています」
――そうしたこだわりもファンにはたまらないポイントですね。最後に、キャラクターの内面についてもお聞きしたいと思います。冒頭で「マリオが人形から人間になった」というお話がありましたが、各キャラクターの人物像は、どのようにして決められていったのでしょうか。
クリス「まずはキャラクターたちの性格をしっかりと固めるところから始めて、そのうえでマリオは、あくまでも普通の人間として描くことを意識しました。スーパーヒーローではあるものの、我々と同じように悩みも抱えて生きている。共感しやすい等身大の人物として輪郭を作っていき、そのうえで家族を大切にするやさしさや、どれだけやられても立ち上がる不屈の精神といった要素を盛り込み、人物像を立体的なものに仕上げていきました」
宮本「マリオ以外のキャラクターたちも、しっかりと時間をかけて人物像を固めていきました。例えばルイージですが、映画の冒頭でマリオと一緒に工事現場を通り抜けるシーンがあるんですけど、マリオは様々なアクションを駆使して、どんどん先に進んでいくのに対し、ルイージは後からついていって、最後にはちゃんと扉を閉めてから出ていくんです。そういうちょっとした仕草や立ち振る舞いにも、それぞれの個性を出すことを意識しています」
取材・文/ソムタム田井