アイドルから俳優へ。双子役を一人二役で演じたパク・ジニョンの演技が光る、異色の復讐劇『聖なる復讐者』
脇を固めるベテランのキム・ヨンミンと将来有望なキム・ドンフィ
殺伐とした少年院の中で、1人場違いのように優しい教師スヌ(キム・ヨンミン)は、一匹狼で周りは敵だらけのイルにとって、砂漠の中のオアシスのような存在だ。キム・ヨンミンは大ヒットドラマ「愛の不時着」で北朝鮮の盗聴係“耳野郎”の役を好演し、日本でも知られるようになったが、それよりずっと以前から演劇、映画、ドラマで幅広い役を演じてきた演技派だ。そのキム・ヨンミンが、少年院で1人穏やかに笑っている姿を見ると、どこか不気味な感じがする。
会見でキム・ヨンミンは「スヌは優しそうに見えて、そういう人が持っている裏の面、それがポイントだった。その裏面をどの段階でどこまで観客に見せるのか悩んだ」と話していた。耳野郎のお人好しで純粋ないい人とはまた違う、一見いい人のようでそれが逆に観客を不安にさせるようなスヌの複雑なキャラクターは、キム・ヨンミンだからこそ、だった。
ジニョンの他にもう1人、注目の若手であるキム・ドンフィも出演している。現在日本でも公開中の『不思議の国の数学者』(22)で名優チェ・ミンシクと共に主演し、昨年の青龍映画賞新人賞を受賞した。『聖なる復讐者』では不良グループの末端でこき使われるファンを演じた。ファンは保身のために不良グループにくっついてはいるが、実はウォルと親しかった。イルはファンを通して、自分が気づけなかったウォルの真実を知る。不良グループのリーダー、ムン・ジャフンを演じたソン・ゴニが会見で「イルが怖かった。目を見るだけで逃げ出したくなった」と言うと、キム・ドンフィは「僕はあなたが怖かった」と恨めしそうにソン・ゴニを見ながら言った。ジャフンは親の権力を笠に着て少年院でもやりたい放題の傲慢なキャラクターだったので、役柄とは打って変わって怖がりのソン・ゴニと、役柄のシニカルな雰囲気そのままのキム・ドンフィの対照的なやりとりに会場が沸いた。
キム・ソンス監督は、復讐を果たす痛快なハッピーエンドよりも、「イルがもう少し生きてみようと思うような機会を与えたかった」と話していた。その、イルにもう少し生きてみようと思わせるのは、ファンだ。結局手を差し伸べるのは神ではなく、人間だった。凄惨な復讐劇の先に「人間」という一縷の望み、そんな余韻が残る作品だった。
文/成川 彩