片渕須直監督、最新作『つるばみ色のなぎ子たち』で平安時代を徹底検証!映画タイトルや制作会社コントレールに込めた想いとは?
『この世界の片隅に』(16)の片渕須直監督が5月21日、東京ガーデンシアターで開催されたアニメーションスタジオMAPPAが主催するイベント「MAPPA STAGE 2023」のスペシャルステージに登壇。現在鋭意制作中の新作タイトルが、『つるばみ色のなぎ子たち』となることを発表した。イベントには、大塚学プロデューサーも出席した。
「この映画は、2017年に構想を始めてすでに6年になる」と明かした片渕監督は、「やっと題名を皆さんにお送りできるところまで辿り着きました」とニッコリ。「映画を作るだけなく、コントレールという会社を作って、この映画のためのスタッフを養成しながらここまで来た」と話すと、大塚も「片渕監督の作品のためのスタジオを作ろうとして2019年に始まったのが、コントレールという会社」と説明していた。
ステージでは、『つるばみ色のなぎ子たち』のビジュアルもお披露目となった。グレーの十二単に身を包んだ女性が佇むビジュアルとなり、片渕監督は「平安時代のお話。(登場人物が)雅やかな色とりどりの十二単を着ていない。グレー、一色」とビジュアルについて触れ、「“つるばみ“というのは、クヌギのどんぐりのことです。どんぐりの上にある帽子をたくさん集めると、黒い染料の材料になる。黒つるばみというのは、喪服の色のことなんです」とタイトルの意味を解説。さらに「なぎ子というのは、以前作った『マイマイ新子と千年の魔法』にも出てきた名前。関係があるのか、どうなのかな(笑)」と示唆するに留め、「海外にもお伝えしたいということで、英語のタイトルも作った」というように、ビジュアルには「The Mourning Children Nagiko and the Girls Wearing Tsurubami Black」との文字もつづられていた。片渕監督は「喪に服す子どもたち」という意味だと語っていた。
メイキング映像も公開されたが、そこには、十二単に身を包んだ人の動きを研究したり、染め物をしたり、松明を持ってみたりと、当時の人々がどのように生きていたのかを体験しているスタッフの様子が映しだされていた。片渕監督は「『松明を持って歩く時には、どんなふうに火を揺らさないで歩くのかな』と考えて、それを作画に起こしたり」と目尻を下げつつ、「想像で描くのとはまた違うことになる」とコメント。「『この世界の片隅に』では、戦争中のものを一つ一つ解き明かして絵にしていった時に、そこに住んでいる人たちの気持ちや人間性がわかってきた。今回も調べていくなかで、平安時代という遠い昔に住んでいた人たちが、我々とどこが同じなのか、違うのかが見えてくる」と本作でも徹底的なリサーチと検証を行いながら、体感したことを作品に込めているという。
原作、監督、脚本を片渕監督が務めるほか、監督補には『この世界の片隅に』に続いて浦谷千恵、作画監督は安藤雅司、音楽を千住明が担当するなど、強力なスタッフが集結した。片渕監督は「安藤さんとは、かなり昔、一度だけ仕事をしたことがあるけれど、本格的にタッグを組むのは初めて。作画の大ベテランです。千住さんとは『アリーテ姫』で初めて仕事をさせていただいた。いままで自分が仕事をさせていただいて、この作品だったらこういう人たちと一緒にやりたいと思った人たちに、集まっていただいた」と信頼しきり。
完成までには「まだまだかかる」と片渕監督が話すと、大塚が「あまりかかると困る」と苦笑いを見せるひと幕もあった。片渕監督はコントレールでの作業にも充実感を覚えている様子で、「一緒に仕事をしてくれるスタッフを募集しながら、人の層を厚くしながら作っていきたい。“コントレール”というのは“飛行機雲”という意味です。50代、60代のベテランと、20代の若い人たちが一緒にやっている会社です。僕たちは前に飛んで、後ろに飛行機雲を残すんだけれど、それを自分の糧にして成長していただいて、すばらしいアニメーション映画の作り手になってくれたら」と願いを込めていた。
取材・文/成田おり枝