”見えざる真実”をあぶり出す『怪物』、登場人物たちの繊細な心の動きが伝わる『渇水』など週末観るならこの3本!

コラム

”見えざる真実”をあぶり出す『怪物』、登場人物たちの繊細な心の動きが伝わる『渇水』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、是枝裕和、坂元裕二、坂本龍一がタッグを組み贈るヒューマンドラマ、停水を執行する水道局職員の葛藤を描く白石和彌プロデュース作、尊厳を守るために議論を行った女性たちの実話を基にした対話劇の、社会が抱える問題に切り込んだ3本。

予測不能のクライマックスへ誘う…『怪物』(公開中)

 【写真を見る】大きな湖を有する町を舞台に"怪物"探しは展開していく(『怪物』)
【写真を見る】大きな湖を有する町を舞台に"怪物"探しは展開していく(『怪物』)[c]2023「怪物」製作委員会

先のカンヌ国際映画祭でお披露目され、拍手喝采を浴びた是枝裕和監督の最新作は、とある郊外の町の小学校で発生した”体罰”が発端となるヒューマンドラマ。その疑惑を確かめようとする母親、不誠実な対応を繰り返す担任教師と校長、そして体罰を受けたとされる少年とその友だち。そんな登場人物たちが織りなす物語は、思いがけない方向へ激しくうねりながら、社会や人間に秘められた”見えざる真実”をいくつもあぶり出す。

一つの事件を複数の異なる視点で描くユニークな構造のプロットを創出したのは、『花束みたいな恋をした』(21)の脚本家、坂元裕二。カンヌで脚本賞に輝いたそのオリジナル・ストーリーと是枝監督の繊細なまなざしが、ミステリー映画のようなスリルを生み、観る者を予測不能のクライマックスへ誘う。はたして『怪物』という謎めいた題名は、なにを指し示しているのか。その問いかけを反芻したくなる余韻も格別の一作だ。(映画ライター・高橋諭治)

30年以上も前の作品とは思えないほど、今日的なテーマを内包した作品…『渇水』(公開中)

「水」を停める男の葛藤を通して社会の抱える問題を描く『渇水』
「水」を停める男の葛藤を通して社会の抱える問題を描く『渇水』[c]「渇水」製作委員会

1990年に文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞候補になった河林満の短編小説「渇水」が、33年の時を経て映画化。水道料金の長期滞納世帯をまわり、停水を執行するという業務につく水道局職員の男、岩切(生田斗真)を主人公に、様々な人々の人生を紡ぐヒューマンドラマだ。「孤高の血」シリーズの白石和彌監督による初プロデュース作品で、監督は高橋正弥、脚本は高橋と及川章太郎がタッグを組んだ。

人間が生きていくために必須の「水」を停めることに対する葛藤を胸の奥に沈め、黙々と業務をおこなう岩切。私生活では妻(尾野真千子)と息子が実家に帰ったきり、戻ってこないという苦悩も抱えた彼は、担当する世帯の幼い姉妹(山崎七海、柚穂)と出会ったことで、少しずつなにかが変わっていく。貧困、ネグレクト、就労問題など、30年以上も前の作品とは思えないほど、今日的なテーマを内包した作品だが、軸となるのは、そこで生きる人間たちの心の変化だ。姉妹の母親(門脇麦)、岩切の同僚、木田(磯村勇斗)も含め、すべての登場人物の心の繊細な動きが伝わってくる。画面いっぱいに広がるヒマワリ畑、激しい水音とともに流れ落ちる滝、ひからびた公園に降り注ぐ透明な水…映画的なシーンの数々もまた、かすかな光を感じさせるラストにつながっている。(映画ライター・石塚圭子)


多数の視点や心情をスリリングに交錯させてゆく…『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(公開中)

ボリビアで起きた実際の事件を基にした『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
ボリビアで起きた実際の事件を基にした『ウーマン・トーキング 私たちの選択』[c] 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

本年度の米アカデミー賞で脚本賞を獲得した、監督としても高く評価されるサラ・ポーリーの10年ぶりとなる待望の監督、脚本作。テーマに向きあう真摯な姿勢や誠実さ、語りの率直さはこれまで同様だが、多数の視点や心情をスリリングに交錯させてゆく手腕、その見せ方や感じさせ方など、すべてに成熟度を増している。それはラストシーンで感無量の想いに襲われ、後から涙があふれだすような感動からも実感させられる。

舞台は開拓時代を思わせるような畑が広がる田舎の集落。少女らへの性的暴行事件発覚を機に、村の女たちがこれからどうすべきかを話しあう。なんと本作の8割以上を占めるのは、その”話しあい”風景。だが時に異様な緊迫感をはらみ、時に共感と労わり合いに胸を打たれ、時にイライラさせられ、時に他愛のないお喋りも混じりこみ、興味を損じるどころか、弛むことなく目を釘付けにさせ続ける。なぜならどんな意見も抱えた事情やトラウマや透けて見える心情も、生理的に分かってしまうから。のみならず醸される緊迫感が、彼女たちの恐怖や痛みを体感させるようなリアルさにあふれているから。意見を異にしながらも容易に決裂することなく、最後まで一致を目指して話し合いを尽くす彼女たちの姿に、未来が見える。なんと昔の話ではなく十数年前に実際に南米で起きた宗教団体の実話というから驚愕!(映画ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

※高橋正弥の「高」は「はしご高」が、山崎七海の「崎」は「立つ崎」が正式表記

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