アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第20回 新章突入!

映画ニュース

アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第20回 新章突入!

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第20回は新メンバーも加わり、新たな展開が始まる!

ピンキー☆キャッチ 第20回 新章突入!

イラスト/Koto Nakajo

「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!

都築は充実していた。七海の大怪我から3ヶ月が経ち、先週から現場復帰を果たした。怪人の討伐もうまく回っていた。正規メンバーが学業や芸能仕事で外せぬ予定があれば、新規の三人が現場に向かい、カバーした。
他に変化といえば新たに事務所を設けたことだ。表向きは芸能事務所で、それも嘘ではないのだが、討伐の待機場も兼ねている。場所は四ツ谷だ。防衛省から目と鼻の先で都築にとっても都合が良い。何より怪人の出現先が都心中心であることを考えると、四ツ谷はまさに東京のど真ん中、23区のヘソともいえる。各所への抜け道も多く、電車の乗り入れも不足なしと申し分ない立地なのだ。

そのマンションは1LDKの間取りだがリビングが20畳あり、デスクの他にL字型の大きなソファを置くことが出来た。討伐の待機に関係なく、みんながなんとなく集まる場になり、コミュニケーションを取る時間も増えてきた。

「なあ都築さん、ここにデカいテレビ欲しいんやけど」
「この部屋はあくまで事務所扱いなんだ。置くにしても小さいのでいいだろう」
「こんなにソファデカいんやし、小さいとバランス悪いやん」
「私もテレビ欲しい。Wi-Fi通ってるんだしサブスクで色々観れるじゃん」
「高いんだぞ、そんなに大きいテレビは。必要経費として落ちるかどうか怪しいところだ」
「私も賛成です。自然とここに集まりやすくなるし、急な討伐要請が出てもスムーズじゃないですか」
「だからテレビを置かないとは言ってないよ。通常のサイズのであれば来週にでも買ってくる」
「つまらん、ケチ」

こんな会話を鏑木がニヤニヤしながら聞いていたが、数日後その理由がわかる事になる。

「おはよう都築さん。みんなでここで期末のテスト勉強してもええ?七海に教えてもらいながら・・・・・・・・・・・え・・・・・・えぇ!!? テレビや・・・・デカいテレビや!!なんで!?都築さん買ってくれたの!!?」
「ほんとだ凄い!!見て七海!テレビ!!」
「わあ!なんだかんだで優しい都築さん!!凄い!!」

理乃はもとより、鈴香も、普段はクールな七海すらもこの喜びようだ。時代がどんなに移り変わっても『デカいテレビ』が持つパワーの前で人は無力なのだ。どんな人間でも、どこの国籍でも、どんな状況でもどんなに気分が落ち込んでいても、デカいテレビでテンションが上がらない者はいない。

「俺じゃない。鏑木さんが家にあるテレビで使ってないのがあるからって送ってくれたんだよ。会ったらお礼言うんだぞ」

戦隊モノの鑑賞用に大型テレビを買ったが、それでは飽き足らずプロジェクターを導入し、これは全く使っていないとの事で鏑木が譲ってくれた。「2年前ので多少型落ちですが、ここで使ってあげてください」と、配送業者まで手配して送ってくれたのだ。90インチは流石に大き過ぎるが、ここまでされると断るわけにもいかない。ネットと各種サブスクにも繋ぎ、みんなの憩いの場が完成した。

都築もこの事務所に1人になると、空き時間を見つけては映画を観るようになった。新メンバーとの分担制度がうまく回っているからなのか、はたまた怪人が弱体化したのか、ここ最近は討伐にあまり時間がかからなくなっている。これまでバタバタと忙しくしていた時間を取り戻すように、様々なジャンルの作品に目を通した。

30年ぶりに観た『スタンド・バイ・ミー』は、子供の頃に抱いた印象とはガラリと変わって見えた。『ショーシャンクの空に』は結局、大名作だった。 邦画にも目を通した。『蒲田行進曲』は中学生の頃に強く影響を受け、役者を志しかけた事もある。

そうした中でふと目にとまったのが『陰陽師』だった。結界を用いて魑魅魍魎を退治する平安時代の道士の物語だ。高校生の頃だったか、この作品を通して京都の街そのものが巨大な結界になっていることなどを知り、興味を持って調べたものだ。今や自分も怪人を討伐する側である事を奇妙に感じながら懐かしみつつ鑑賞していると、突然都築の背中に悪寒が走った。

京都の場合、主要な神社やお堂が建てられた地点を線で結ぶと、巨大な五芒星となる。同じように仙台に張られた六芒星の結界地点も美しいほどだった。こうしたポイントが日本各地には点在しており、邪なる気を跳ね除けているのだと知った。

都築は、ずっと心のどこかで引っ掛かってはいたのだ。なぜ怪人が、ごく決められた範囲内にしか出没しないのか。もっと広範囲に出現すれば我々討伐側の動きも撹乱出来るはずなのにと。何か理由があって23区にこだわっているのだろうかと。
何より、弱いのだ。以前の七海の大怪我もある、弱いといってもそこまで弱くはないのだが、地球を征服する悪き者としては弱く、サイズも小さい。そして怪人は絶命すると、もれなくその身体は奇妙に弾けて液体化し、地面に溶け込んでいった。生態を知る為に成分を採取しようと何度も試みたのだが、粒子があまりにも細かいようで、現地に訪れた分析官からも採取不可能だと告げられた。

これらを踏まえて考えてみた。
『怪人が弱いのではなく、実は強い必要がないのではないか・・・。悪さをするのは我々の目を欺く行為で、その土地土地に深く溶け込むのが目的だとしたら・・・。場所・・・23区内・・・・』

都築はノートパソコンを開き、これまでの討伐履歴に目を通した。

『これまで怪人が出没した地域は・・田町、旗の台、湯島、両国、上馬、豊洲、用賀、笹塚、巣鴨、中野坂上、田端、奥沢、それからええと・・・・』

頭の中で都内の地図をそらんじてみると、怪人は23区の広範囲に満遍なく出現しているように思えた。そしてその中心に思い当たるのが、ここ四ツ谷・市ヶ谷だ。ここは都市の中心部にあたり、日本の防衛の中枢機関、そう、防衛省がある。

『もし、もしもだ。怪人が、いや、もっと強大で凶悪な何者かがこの地球を狙っているとすれば・・・』

中枢機関の麻痺なのか封じ込めなのか目的は判らない。手始めの基点として日本に狙いをつけ、用意周到に下準備を進めているとしたら。結界・・・。絵空事に思えたそれこそ映画のような話が、その効力が実在するとしたら。

不可思議だったあらゆる事象が都築の頭の中で全て繋がったように思えた。動悸が激しく胸を打つ。もしかすると取り返しのつかない事を見逃してしまっていたのかもしれない。細かく震えおぼつかない手で受話器を上げた。防衛省に直結する、盗聴予防を施された設備の固定電話だ。理路整然とした説明の文章が頭に浮かばない。3つのコールで上官が電話口に出た。

「もしもし都築です。緊急会議の要請です。・・・はい。・・・はい。申し訳ありませんがこの場では説明がつきません。事務次官・・・いや、防衛大臣の出席を要請します。これより省へ戻りますので後ほど直接」


耳元では上官が何やら話し続けていたが、都築は受話器を置くと上着を羽織り、マンションを出た。帰宅のラッシュであろう、駅前では沢山の人々が行き交っている。生活の営みが、刹那的な平和が今の都築には生々しく、焦燥感を持って目に飛び込んできた。

「間に合うだろうか。いや、間に合わせなければならない」

人の波に逆流し、都築は防衛省に向けて早足で歩き出した。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
作品情報へ