アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第3回 ~アイドルとお金その2~|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第3回 ~アイドルとお金その2~

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第3回 ~アイドルとお金その2~

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が今回、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説連載「ピンキー☆キャッチ」をスタートした。第3回。

ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」
ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」撮影/宮川朋久

ピンキー☆キャッチ 第3回

笹塚の商店街は、スライムを吐き出す怪人の出現でベトベトになっていた。夕飯の買い出しに来た主婦層を狙った卑劣な犯行だ。裏手に止めた車を飛び出し、『スター☆ピンキー参上』の名乗りを上げ、戦闘が始まった。

「平和な笹塚の商店街を…許さない!」

鈴香の声だ。今まで一度も聞いた事のないセリフに耳を疑う。いつになくテンション高く討伐に臨むメンバーに、都築は一抹の不安を覚えた。討伐の手当てが直接自分達に渡ると決まり、怪人が現金に見え始めているのではないのかと。ふと横に目をやると、路肩にしゃがみ込んだ女子高生が、スライムが付着したトートバッグを丁寧に拭き取っていた。値段でいえば理乃のバッグとは比較にならぬ、おそらく三千円程の安物だろう。困惑した表情で、汚れたキャンバス地をハンカチで何度も何度も拭う少女に、都築は複雑な思いで目を奪われていた。

「グワァ〜!」

ピンキー☆クラッシュの閃光を浴び、怪人の断末魔が響き渡った。我に帰った都築はメンバーを向かい入れるため車の扉を開けた。――その時だった。彼女達は灰に帰す怪人にピースサインを向け、笑顔でこう言い放ったのだ。

「毎度あり〜!」
 
決定的だった。これはもう本当に、シンプルに良くない。 確かに彼女達を勝手にセレクションし、地球防衛に引き込んだのは我々だ。しかし両親から年頃の娘を預かる身として、目に余る言動に対してはきちんと指導しなければならない。それは立場云々ではなく、年長者としての役目だ。車に戻っても何やら携帯を見ながらキャッキャと騒ぎ続けているメンバーに、都築の苛立ちは募った。

「やっぱりこれがええわ。このヴィトンにしよう」

小声ではあったが、理乃の声がはっきり聞こえた。もう限界だ。都築はわざと乱暴に路肩に車を停めた。

「お前達いい加減にしろ‼」

全員が目を丸くして都築を見た。

「約束が違うじゃないか‼無駄遣いは控えるようにって、さっき話したばかりだろう」

普段からあまり感情的にはならない為、自分の出した大声に頭の奥がキリリと痛んだ。しかしこればかりはもう黙っているわけにはいかない。

「俺だって、俺なりに考えてみんなの為にだな……」
「無駄遣いちゃうわ」
「――え?」
「これは私らにとって無駄遣いとちゃうんよ。必要だから買うの」
「必要って……。高校生にブランド品なんか必要ないだろう!」
「ほんなら言わせてもら――」

理乃が何か言おうとするのを七海が慌てて抑えた。

「都築さん、私達もうここから歩いて帰ります。お疲れ様でした」

三人は都築を一瞥もせず車を降りると、寮の方向へ向かった。歩いて帰るも何も、寮はすぐ目の前だ。やはり手当ての全てを彼女達に預けてしまうのは誤りだった。金で身を滅ぼす事が無いように、親心で俺は……。頭を掻き毟った都築は物に当たってしまいそうになるのを懸命に抑え、車を出した。二日後、楽屋にいてもメンバーとは事務的なやりとりのみで、会話らしい会話は無かった。自分と話をするつもりが無いのは、はっきりと態度で見て取れる。この日は都築44歳の誕生日だった。先日妻に夕飯のリクエストを聞かれるまでそんな事もすっかり忘れていた。業務以外にも色々考えることが多く、思考が追いつかない。自分一人では身が持たない。人員を増やしてくれと何度も本部に掛け合っているが、いつまで経っても適任者選別中だとケムに巻かれ――。
     
急に楽屋の電気が消えた。窓のない十五畳ほどの楽屋は何も見えない闇に包まれた。ふと、奥に設えられた着替え用のパーテーションの内側で、何かがぼうっと灯った。
 
♫ハッピバースデー トゥーユー
ハッピバースデー ディア 都築さん   ハッピバースデー トゥーユー

第3回「~アイドルとお金その2~」
第3回「~アイドルとお金その2~」イラスト/Koto Nakajo

  
三人がいたずらっ子のような笑顔を浮かべながら、何事かと狼狽する都築の前にケーキを置いた。促されるままロウソクを吹き消すと、都築は拍手と歓声に包まれた。楽屋の電気が点けられた。シバシバした目が明るさに徐々に慣れてくる。そして理乃の持つ紙袋に気が付くと、都築は気を失いかけた。ヴィトンだ。ルイ・ヴィトンの紙袋だ。理乃がニヤ〜と笑いながら紙袋をガサガサ揺らす。都築は『ハァァン』と漏らしたことのない声を漏らし、その場にうずくまった。心からこのまま溶けてしまいたいと考えていた。腕を掴まれながら、半ば強引に袋を開けさせられると、中身は落ち着いたカラーのトートバッグだった。色々考えながら探してくれたのであろう、ブランドの刻印は控えめで、都築でも難なく使いやすそうな代物だった。膝から崩れ落ちる都築を見下ろし、理乃が満面の笑みで言い放った。
 
「無・駄・遣・い・ちゃ・う・や・ろ」

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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