「ザ・王道」なハードボイルドストーリー…作家・松久淳がリーアム・ニーソンの新作を語る!
全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」創刊時より続く、作家・松久淳の人気連載「地球は男で回ってる when a man loves a man」。今回は、世界中から愛され続けている“私立探偵”の物語、『探偵マーロウ』(6月16日公開)を紹介します。
猫に名付けたほど好きなマーロウが活躍する話
個人的な話になりますが(って、いつも個人的な話ばっかりしてますが)、私と22年以上の歳月をともにしてくれた猫の名前は「マーロウ」でした。
もちろん、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説に登場する、探偵フィリップ・マーロウから名付けました。
「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」
チャンドラーを読んだことがない方でも、「プレイバック」という作品のこの名台詞はご存知ではないでしょうか。
私は代表作「長いお別れ」が好きすぎるのですが、「ギムレットには早すぎるね」という台詞にしびれて、若いころ、なにかと「〜には早すぎるね」というフレーズを連発してました。お恥ずかしい。
そして20代の私は月刊誌編集者だったのですが、思いきりチャンドラーをフィーチャーしたハードボイルド特集を作ったこともあります。マーロウ名台詞集も作りました。こちらはそんなに恥ずかしくない過去。
チャンドラーは映画化作品も多いですけれど、やはりロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(73年、「長いお別れ」の原題です)が有名でしょうか。ただし本作、原作の50年前後ではなく、舞台が70年代にアレンジされています。
と、ご存知ない方にざっと下地をお伝えしたところで、今回は『探偵マーロウ』。
本作はチャンドラー原作ではないのですが、14年に発表された、チャンドラー財団公認のマーロウもの「黒い瞳のブロンド」の映画化作品。
孤高の私立探偵マーロウのもとに、謎めいた美女がやって来る。彼女は失踪した自分の愛人の捜索を依頼する。たんなる人捜しかと思いきや、その男は死んでいたことがわかる。しかしそこにはハリウッドの映画産業を背景にした、幾人もの陰謀や策略が絡んでいた。
もう、「ザ・王道」なハードボイルドストーリー。
しかも戦争の空気が漂い始めた1939年、しかし豪華絢爛なハリウッドの世界、スーツにハットのスマートな男たちと、艶やかなドレスのファム・ファタール(魔性の女)たち。世界観や舞台、美術などはほぼ完璧です。
チャンドラーものではないですが、『チャイナタウン』『マルタの鷹』『青いドレスの女』『ハメット』など、このタイプの映画を久しぶりに観たなという印象です。
さて、ここまで出てきた単語がピンとこない方がどう思われるかはわかりませんが、ほぼ理解できた同好の士には、とてもオススメします。
そしてなんといっても、リーアム・ニーソン。
この連載でもヒュー・グラントやキアヌ・リーヴスなどと並んで登場率の高い大好きな俳優ですが、「還暦からのアクションスター」(私命名)も70代。
正直、そろそろ最近のB級アクション映画、きつそうだなと思ってたんですけど、本作も殴ったり殴られたりはありますけど、基本はクールな探偵。ちょうどいい頃合いで、観ていてなぜかほっとしたりしてました。
B級ってわざわざ言わなくてよかったですね。
文/松久淳
■松久淳プロフィール
作家。著作に映画化もされた「天国の本屋」シリーズ、「ラブコメ」シリーズなどがある。エッセイ「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と溪谷社)が発売中。