「完成しただけで金メダルを取った気分」『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』監督トリオが語る、壮絶な舞台裏
画期的な映像表現で世界中で大きな話題となり、第91回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)の待望の続編『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(公開中)。スパイダーマンを継承した高校生マイルス・モラレスは、すべてのスパイダーマンに定められた“ある運命”に逆らうことを決めたが、その決断はマルチバース全体を揺るがす危機を招くことに。
映像表現も大きく進化を遂げた今作は、一体どんなふうにして作りだされたのか。ピクサーの『ソウルフル・ワールド』(20)を手掛けたケンプ・パワーズ監督、Netflixの「ヴォルトロン」など多数のアニメ・シリーズを手掛けたホアキン・ドス・サントス監督、前作ではプロダクション・デザイナーとして参加していたジャスティン・K・トンプソン監督の3名にインタビューし、その舞台裏について話を聞いた。
「前作と同じことを繰り返さないようにしました」(ケンプ・パワーズ)
――前作はとんでもない作品でしたが、初めてご覧になった時の感想はどんなものでしたか?
ホアキン・ドス・サントス(以下、ドス・サントス)「度肝を抜かれました。私がずっと待ち望んでいた“ほかのタイプの映画に対抗できるアニメ映画”でした。アニメだからこういうものという既成概念を壊した作品だとも思います」
ケンプ・パワーズ(以下、パワーズ)「その年に観た最高の映画だと思いました。アニメ映画としてじゃなく、映画としてね」
ジャスティン・K・トンプソン(以下、トンプソン)「自分は前作にも関わっていたので、まず完成して一安心でした。それはともかく、本当に観客が喜んでいるのが見られてよかったです。自分たちとしてはアート映画を作っているような気持ちだったので、観客がどう反応するかまったく分かっていなかったんです。私はそこに感動しましたね」
――「責任」というのがスパイダーマンのキーワードとなっていますが、あのようにとんでもない作品の続編の監督を務めることになり、どんな「責任」を感じましたか?
パワーズ「まず私たちが責任を持ってやり遂げなければと思っていたのが、前作と同じことを繰り返さないということでした。前作のよさはユニークであり、いままでにないものだったので、そこで生まれたものをまた繰り返せば楽なのですが…そういった誘惑に負けないようにしながら、自分たちの限界に挑戦してさらに新しいものを生みだすようにしました。その結果として、ストーリーだけでなくビジュアル面にしてもかなり別物になったと思います。安全な道を選ばないようにしたとも言えますね」
――おっしゃるとおり、前作から様々な面で変化が見られる映画になっていますが、製作側にとって大きく変わったところはありますか?
トンプソン「列挙しきれない変化がありますね。今回は5つの世界が登場しますが、1つの世界を描くのに100近いツールを開発して使いました。それは普通であれば映画がまるまる1本作れる量なんですよ。キャラクターにしても、例えば本作のヴィランである、スポットの身体にある筆の跡みたいなものとか、インクがこぼれた跡みたいなものなど、それぞれを3Dで表現するためのツールを用意しました。今回使った新しいツールを合計したら1000以上になってると思いますね」
――スポットはまるで下書きのような見た目のキャラクターでしたが、なぜあのようなデザインになったのでしょうか?
ドス・サントス「彼は未完成というのをテーマとしています。ストーリーのなかでもそのパワーが成長の過程にあるというキャラクターなので、イラストを描く時の下書きに使う青いラインが入っているというデザインにしました。なので最初と最後では見た目が変わっているんですよ」