時空を超えることの代償…「僕だけがいない街」作者・三部けいが語る『ザ・フラッシュ』「奥深くて、いい意味でのややこしさも含めてすばらしい」
「DCヒーローたちが欠点に向き合いつつ奮闘する雰囲気が好き」
アメコミヒーロー映画をそこまで観ていないと謙虚に語る三部だが、数あるなかで好きなヒーローはバットマン。映画では『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(22)と『ジョーカー』(19)がお気に入りだという。「ゴッサム・シティと名前は変えているけれど、明らかにニューヨークを彷彿とさせられる。しかもどの話も生々しい人間たちの姿がある。好きなのは、そういう人間味あふれるドラマを見せてくれる作品なんです。『ウォッチメン』なんかもいいなと思っていたんですが、その理由はキャラクターの一人、ロールシャッハ(ジャッキー・アール・ヘイリー)が超人的な能力を持っているというより、身の回りにある物を使って戦うからなんです。そういうリアルさが好き。しかもDCのヒーローたちって欠点だらけ。めちゃくちゃ足りないものだらけなのに、そこに向き合いつつ奮闘している。そういう雰囲気が好きなんです」。
ちなみにバットマンの作品を観たのはティム・バートン監督版からで、最初は退廃的なゴッサム・シティの描き方などに驚かされたという。だから今回の『ザ・フラッシュ』でマイケル・キートン版のバットマンが登場した時は、「いい意味で違和感なく楽しめた」という。「キートン版って、そういえばバットマンのスーツの胸の部分が黄色だったよな…とか、思い出しながら、こっちのほうが馴染んでいる感じですんなりと受け入れられました」。ほかにも映画ファンならニヤリとしてしまうような、様々なキャラクターが登場する仕掛けも楽しめたと明かす。
「タイムリープしてなにかを得る人って、必ずなにかの代償を払う」
三部も「タイムリープもの」として、代表作となる「僕だけがいない街」を描いているが、この題材は過去を変えればどうしても“現在”が変わってしまう。創作するうえでの難しさについて、作者としてどのように組み立てていっているのだろうか。「自分の場合は“オチ”から作っていくんです。話を作る時にまず最初の事件というのは思い浮かんでいるんです。例えば誰かが死ぬ、じゃそれで最後はどうなるのか。『僕だけがいない街』でも主人公の母親が亡くなるんですが、ではその母親は助かるのか、助からないのか。そこで主人公が払うことになる代償はなんなのか。タイムリープしてなにかを得る人って、必ずなにかの代償を払いますからね。今回の『ザ・フラッシュ』もすべてをうまく手に入れられるわけではない。そういう決まり事をまず作っていく。決まり事をすべて作っておいて、そこがハマるように物語を整えていくんです。あとは主人公の行動原理。主人公がなにをするか。そこが物語の肝になる。その行動原理がブレなければ、話がどう転がっても、本線に戻ってこられる。『ザ・フラッシュ』はその行動原理がしっかりしていたからよかったし、快作になったんだと思います」。
特に、「缶詰」という小道具ひとつにその“鍵”を集約させたのも、本作の巧妙な見せ方だと話す。「フラッシュは、あるべき缶詰があれば母親は死ななくて済んだという結論に達して行動するわけですが、普通は缶詰だけでなく、こうすれば過去を直せるかもしれないという要素をたくさん置いてしまうもの。それを一つにしたのはうまいですよね。しかもその缶詰に関わるシーンは、後半でとてつもなく感動的なシーンにもなる。物語や演出の勝利だと思います」。また、主人公が2人同時に存在する設定も、おもしろさにつながっていると分析する。「2人の性格をまったく違うものにしているじゃないですか。母親がいる状態で育った人と、いないで育った人。同じ自分だから簡単に意思疎通ができそうなのに、育ち方が違うからできないというのはユニークでしたね。自分の行動だから尊重してくれるという展開があったのもよかった。誰かを助けたいという動機は一緒だけれど。その塩梅を、すごく上手に見せてくれたなと思いました」。
フラッシュが払う、時空を超えたことへの代償とは?その“答え”をぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文/横森文
漫画家。荒木飛呂彦氏のアシスタントを経て、漫画家デビュー。「カミヤドリ」「夢で見たあの子のために」など作品を発表。2012年より「ヤングエース」にて連載を開始した「僕だけがいない街」(全9巻)が大ヒットを記録し、テレビアニメ化や実写映画化、配信ドラマ化もされた。最新サスペンス作「13回目の足跡」が「コミックNewtype」で連載中。
・コミックNewtype「13回目の足跡」:https://comic.webnewtype.com/contents/thirteen/