スロヴェニア国際映画祭で作品賞を含む11部門を独占した『栗の森のものがたり』ティザーポスター&特報映像5本が一挙解禁
スロヴェニア国際映画祭で最優秀作品賞を含む11部門を独占した新鋭グレゴル・ボジッチ監督の長編デビュー作『Zgodbe iz kostanjevih gozdov』が、邦題を『栗の森のものがたり』として10月7日(土)より全国順次公開されることが決定。このたび本作の公開情報ならびティザーポスターと、美しい特報映像5本が一挙に解禁となった。
1950年代、イタリアとユーゴスラビアとの国境に位置する広大な森を舞台に、ケチな棺桶職人と、夢見る栗売りという孤独な2人の人生を幻想的に描きだす本作。この小さな村では、第二次世界大戦終結後の長引く政情不安から、人々の多くは村を離れるか、戻ってくるはずもない家族や隣人をただ待ち続ける日々を送っていた。老大工のマリオは、家を出たまま戻らない一人息子からの連絡を待ち続け、投函することのない息子宛の手紙に想いを綴っては引き出しにしまう。栗売りのマルタは、戦争から戻ってこない夫からの手紙と数枚の写真を唯一の手掛かりに、夫が現在住んでいるであろうオーストラリアに旅立つ決意をした。ある日、2人が出逢い、互いの身の上を語り合うと、マリオはマルタにある提案を持ち掛ける。
本作の監督、脚本、編集を手掛けたのは、本作が長編デビューとなるスロヴェニア出身の新鋭ボジッチ。2019年のトロント国際映画祭でプレミア上映されるや大喝采を浴び、スロヴェニア国際映画祭では最優秀作品賞、監督賞、男優賞、撮影賞、観客賞など11部門を独占。2020年に開催されたなら国際映画祭では、コンペ作品の中で「最も美しい」と評され審査員特別賞に輝いた。
フェルメールやレンブラントといったオランダの印象派の画家に影響を受けたというボジッチは、35mmとスーパー16mmフィルムを駆使し絵画のような風景を切り取っている。使い古しの洗面器にピッチャーや果物、ほうきや靴、洗濯カゴや紙くずまで、なにもかもが優しい光に照らされ、ゆっくりと時が流れる森の日常を、陰影深く描きだしている。
賭け事が大好きで、病弱な妻にも辛辣な言葉を浴びせる老大工マリオ役に、イタリアの名優マッシモ・デ・フランコヴィッチ。70以上の作品に出演し、多数の賞を獲得したメソッド・アクターだ。栗拾いのマルタ役には、クロアチアで活躍するイヴァナ・ロシュチッチ。「最もセクシーなクロアチア女ニュースリリース」にランクインする魅力的な人気俳優でもある。人生を重ね深みある顔に、神々しささえ感じられるマリオの妻ドーラ役には、イタリアの名女優として200以上の演劇や映画に出演する演技派、ジウジ・メルリ。音楽は、アイスランドのヘクラ・マグヌスドッティルが担当し、幽玄なテルミンの音色で彼らの喜びや悲しみ、喪失感の無常さを詩的に表現した。馬車に乗る若い女性2人がシルヴィー・バルタンの名曲「アイドルを探せ」を唄い、踊るシーンはあまりに愛おしく観客の心にいつまでも残るだろう。
ロシアの文豪アントン・チェーホフの短編小説にインスピレーションを受け、人生の機微を甘くほろ苦く描いた本作。生と死の境界線は曖昧で、森の中で遭遇するものは現実なのか妄想なのか。すべてのカットに美が宿る映像美で魅せる、すでに古典の趣さえ漂う成熟した珠玉作となった『栗の森のものがたり』。深い余韻を約束してくれるメランコリックな大人の寓話に注目して。
文/山崎伸子