韓国ならではのグルメや風景が楽しめる「パク・ハギョンの旅行記」の魅力と舞台を現地在住ライターが解説!
ハギョンの旅を通して、人のぬくもりにも触れることができる
第7話「パンがないと生きていけない」と宣言するハギョンが出向いたのは、朝鮮半島の最南端に位置する済州島(チェジュド)。日本人にとっての沖縄のような存在で、韓国人なら修学旅行や家族旅行で一度は訪れたことのある南のアイランドだ。火山島なので起伏が激しく、世界遺産も多くあり、自然や生態系も豊か。韓国で最も高い山・漢拏山(ハンラサン)を中心に小さな街が点々としている。韓国内の旅行先としてはぶっちぎりの1番人気で、観光地のため物価も高め。最近は若者が移住するケースが目立ち、ドラマでもおしゃれなベーカリーが何軒か登場したが、最後を締めくくったのは市場のはずれにある昔ながらの小さなパン屋さん。このドラマはいつ、どこででも“韓国らしさ”を大切に、この国ならではの人情や風情を丁寧に描いている。こうしてハギョンは旅先で日常の喧騒から離れ、見知らぬ人のあたたかさに触れ、また月曜日から仕事に向き合えるのだろう。
ハギョンとのショートトリップも8話でいよいよ完結。日本で7月12日(水)の11時から配信される最終回は、世界遺産の寺院や古墳が集まる歴史都市・慶州(キョンジュ)が舞台に選ばれた。古代の朝鮮半島東部に位置した新羅王朝(紀元前57年~935年)の首都があった街で、ソウルからは高速鉄道のKTXやSRTで2時間強、釜山からなら高速鉄道で30分ほどの距離。日本の京都・奈良のような位置づけで、こちらも済州島に並ぶ修学旅行の聖地だ。子供のころの思い出を求めて大人になってから訪れる人も多く、ハギョンもこの地で青春を振り返りながら大人になった自分と向き合い、なぜ旅行をするのか、旅行というものはなんなのかを考える。ホウレンソウやニンジンがたっぷり入った太めのキムパッを片手に。韓国人にとってのキムパッは私たち日本人にとってのおにぎりのような存在で、口にすると作ってくれた母親や一緒に食べた友人を思い出すもの。旅だからと言って特別な食事を求めるのではなく、思い出の土地で思い出の味を食べれば、記憶が一気によみがえるだろう。
ハギョンの旅行スタイルは、なんだかとってもシンプルだ。正直、行き先はどこでもいいのかもしれない。日常から脱して、自分の知らない場所に行く。ハギョンにとってはたった1日の旅先でも、その地に住む人もいる。旅先の見知らぬ人と交流をして、その人の考えに耳を傾けてみる。何にも知らない赤の他人だからこそ、抵抗なく自分とは違う価値観を受け入れることができる。日本人よりも情熱的で、いい意味でおせっかいな韓国人ならではの“他人でもほっておけない精神”は、ドラマを見ているとうらやましくもなる。時には本音で言い争うこともあるけれど、根っこは相手を思う気持ちが強いからこそ。ハギョンの旅を通して、人のぬくもりにも触れることができる。
コロナがあり、旅行が自由にできなかった約3年間。様々な制約が今年になって解除され、会いたい人にも会えるようになった。海外旅行は魅力的だが、まだまだ腰が重い人もいるだろう。そんなときはハギョンのように近場でもいいから、ふらっと出かけてみるのはどうだろう。深く考えずに、身軽にサクッと。1人で行っても、どこに行っても、旅行は楽しいものなのだから。
文/鈴木ちひろ