『オクジャ』ポン・ジュノ監督、「映画監督は死ぬと地獄で焼かれます」!?
遺伝子組み換えによって食料用に開発された巨大生物“オクジャ”を、必死で救おうとする少女ミジャ。『殺人の追憶』(03)や『グエムル -漢江の怪物-』(06)の鬼才ポン・ジュノ監督が、ミジャとオクジャの絆を軸に、ティルダ・スウィントン、ジェイク・ギレンホールらハリウッドスターの強力な布陣で紡ぐNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』が現在配信中。来日したジュノ監督と、「目から滲むものがいい」と監督が絶賛する主演のアン・ソヒョンが作品を振り返ってくれた。
今年のカンヌ国際映画祭に正式出品されながら、ストリーミング作品は映画か否かとコンペティションを巡る議論へと発展した本作。宮崎駿作品にもインスパイアされたという美しい自然の中で戯れる姿、都会で展開する冒険、全編に貫かれるミジャとオクジャの思いに、垣間見える現代風刺…。出来上がったのは、心に響く紛れもない映画作品である。そもそも監督は、ストリーミングと劇場公開を分けて作品作りをしたわけではない。
ジュノ監督にとって新たな挑戦になったのは、主人公を少女にした愛の物語という点だ。しかしミジャはいわゆる典型的な少女とは違うと監督は口にする。「彼女は、か弱い少女ではない。誰かが守ってあげなければならない存在ではなく、とても強靭なキャラクター。貯金箱を思いっ切り割ったり、ガラスの扉に体当たりでぶつかっていったりね。演出家としては、強靭で猪突猛進、何かを突破していくような少女を描いたことに、大きな快感があったんだ。そういう意味では、オクジャが少女のようだったかなと。オクジャは守ってあげたい存在だからね」。
ミジャはオクジャのお母さんだとアンは話す。「そうでなければ、あんな風に必死になって探すでしょうか?命を懸けてまで探しに行って連れ戻そうとする。私はミジャをオクジャのお母さんだと思って演じていました。ミジャには確かに母性愛があったと思います」。
最新の映像技術によって違和感なく画面に溶け込むオクジャだが、撮影現場でアンが共に芝居をしたのは、スタッフが動かすオクジャの人形や模型だった。アンはそれらオクジャの人形と出来る限り一緒にいた。「自然と愛着が湧いたので一緒にいました。オクジャといると、一番気が楽だったんです。2人でいるほうが自然でした」。撮影用のオクジャとも絆を築いたアンは、監督が「撮影で使っていた頭のパーツが事務所にあるから、いつでも会いにおいで」と言うと、「本当に!?」と大興奮していた。
愛らしいオクジャは観客も魅了する。その表情、動きに、見れば見るほど愛着が湧き、世界のどこかにいるんじゃないかと心から思うはずだ。「それはとても嬉しい。まさにそういうリアクションが欲しかったからね」と笑顔を見せる監督だが、“どこかにいそうな愛らしいオクジャ”を生みだすためには、相当な試行錯誤が重ねられたという。
「『グエムル~』でも組んだデザイナーのチャン・ヒチョルさんとオクジャの造形を考えていった。かわいいけれど、決して漫画っぽすぎず、実際にいる動物に見えること。ブタ、カバ、ゾウのほかに、一番参考にしたのはマナティ。マナティはすごく大きいけれど、顔を見るととても優しそうで、なおかつ哀愁も感じさせる。何百枚という写真を参考にしたりして、悩みながら作り上げていったんだ」。
またオクジャにはミジャとの絆が感じられなければならない。そこにはアンの“目が”大きな力になったと監督は語る。「初めての俳優さんと仕事をするとき、私はその俳優さんの写真をたくさん撮る。アンの写真を正面から撮ったとき、彼女の目から滲むものが、ほかの人とは違うと感じた。そしてオクジャと彼女の目を見ていると、細かな説明をしなくても、互いが通じ合っている感じがした。目は心の窓と言うよね。『母なる証明』(09)でもウォンビンさんとキム・ヘジャさんの目が似ているというセリフが登場するけれど、ミジャとオクジャの目も通じ合っていると感じられたんだ」。
本作にはアクション映画のような側面もある。岩山をかけ下りたり、車に飛び乗ったり。「たくさん走って、水も浴びて、いろんなものにぶつかりました(笑)。本当にアクションが多くて、大変じゃなかったシーンはありませんでした。でも、それもすべてはいいカットを作るため。監督も私もベストを尽くして頑張りました」とのアンの優秀な答えを聞きながら、監督はこんな持論で笑わせた。
「こんな風に俳優に苦労ばかりかけている監督というのは、死んだら地獄に堕ちて炎に焼かれるんじゃないかな。地獄には映画監督が集められている場所があるとか。そこで炎に焼かれながら、『ゴメンナサーイ』(※日本語で)と叫んでいるんだよ」。隣で声を上げて笑うアン。楽しそうな2人からは、『オクジャ/okja』への自信が伝わってきた。【取材・文/望月ふみ】