いつまで続く?ハリウッド俳優連合のストライキ、現状の問題点と多大な影響をまとめ
SAG-AFTRAのメンバーは現地時間7月14日よりピケッティング(ストライキ参加促進運動)を行っている。ロサンゼルスではサンセット大通りのNetflix本社前やバーバンクのワーナー・ブラザース、ディズニーなどのスタジオ前にメンバーが集まり、ストライキを呼びかけている。ニューヨークではNetflixとワーナー・ブラザースが入居するビルの前、タイムズスクエアにあるパラマウント本社前、ロックフェラーセンターのNBC本社前などで連日ピケッティングが行われている。
ピケラインには多くの著名俳優も参加し、LAのワーナー・スタジオ前にはボブ・オデンカーク、NYのNBC前にはジェイソン・サダイキス、パラマウント前にはケヴィン・ベーコンやクリスチャン・スレーター、Netflix前ではゾーイ・カザンとポール・ダノなどの姿が見られた。
このように著名俳優が参加する背景には、ストライキによって実際に影響を受ける人々の存在がある。Aリストスターではない専門俳優や、製作スタッフ、運転手、ケータリングなどエンターテインメント製作に関わる様々な職種の人たちの多くはフリーランスで、ストライキ期間は他の仕事で収入を得なくてはならない。前回の脚本家ストライキは、2007年11月5日からアカデミー賞授賞式直前の2008年2月12日までおよそ3か月にわたって行われた。ストライキによる影響は計り知れず、ネットワーク局は過去の放送番組を再放送して場をつなぎ、ゴールデングローブ賞授賞式は中止された。スタジオは人員を一時解雇し、ロサンゼルス経済圏全体での経済損失は30億ドル以上とも言われている。
当時はDVDやビデオテープの二次使用料の増額を求めたストライキだったが、今回は前ストライキ以降に登場したストリーミング・サービス(注:北米におけるNetflixの配信サービス開始が2007年1月)のレジデュアルをめぐる交渉が難航している。二次使用料を測定するにはデータ測定が必要不可欠だが、ストリーミング各社はデータ開示を断固拒否しているからだ。SAG-AFTRA側は、パロット・アナリティクスというコンテンツ注目度、波及度、視聴率などを調査する民間企業のデータを使用することを提案している。賃上げについては、AMPTP側の契約初年度に5%アップ提案に対し、SAG-AFTRAはここ数年のインフレ率を鑑みた15%という数字を提起していたが、現在は11%を訴えている。健康保険料については1980年以来見直されていない上限額の引き上げを要求している。
他方、AMPTP加盟各社にとっても、パンデミック以降の劇場興行収入が激減しているうえに、ストリーミングの台頭でビジネスモデルが急激に変化している。AMPTPが提案したと伝え聞くエキストラ俳優のAIクローン化計画はあまりにも情け容赦ないが、AIやテクノロジーの進化に抗うことは既に現実的ではない。SAG-AFTRAのフラン・ドレッシャー会長は、「率直に言って、私たち(の要求と回答)はかけ離れています」とストライキ開始を宣言したが、現在の社会状況や経済の変化、テクノロジーの変化にかき乱され、どちらもなす術がなくなってしまっているのではないだろうか。前回の脚本家ストライキの轍を踏むと、双方譲歩したうえでの交渉成立は、来年3月10日に計画されている第96回アカデミー賞授賞式ごろまでもつれ込むかもしれない。
文/平井伊都子