パク・ソジュン×IU『ドリーム』のイ・ビョンホン監督に独占インタビュー。唯一無二の“イ・ビョンホンワールド”の住人たちを生みだす秘訣は?

インタビュー

パク・ソジュン×IU『ドリーム』のイ・ビョンホン監督に独占インタビュー。唯一無二の“イ・ビョンホンワールド”の住人たちを生みだす秘訣は?

「世界中の方々にどう観ていただけるのか、楽しみにしています」

2024年初旬には、『エクストリーム・ジョブ』のリュ・スンリョンと、「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」のアン・ジェホンと再度組んだNetflixオリジナルシリーズ「Chicken Nuggets」が配信予定、この夏からは「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の脚本家、キム・ウンスクと組んだ新しいドラマシリーズの撮影に入るという多忙さ。『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』のNetflix世界配信にも、「劇場に行かなくても気軽に自宅で私たちが作った映画を世界中の人たちに観ていただけるのは、個人的にとてもうれしいです。私の映画は比較的世界中の観客に観ていただいている方だと思いますが、こういうケースの世界配給は初めてのことなので。他の言語の吹き替えで観る人もいるかもしれない。世界中の方々にどう観ていただけるのか、私も楽しみにしています」と、大きな期待を寄せる。

 本作は、2010年にブラジルで開催された「ホームレス・ワールドカップ」に出場した韓国のホームレスサッカーチームの実話が元になっている
本作は、2010年にブラジルで開催された「ホームレス・ワールドカップ」に出場した韓国のホームレスサッカーチームの実話が元になっている[c]New York Asian Film Festival 2023

イ・ビョンホン作品が多くの観客に愛される理由であり、笑いと涙と共感を同時体験できるのもキャラクター設定とセリフの妙にある。「空想がちな子どもだった」と認める監督は、唯一無二の“イ・ビョンホンワールド”の住人たちを生み出す秘訣をこう語った。

「ぼーっとしているように見えてもいろいろ考え、人間観察をしています。子どものころから、頭の中で空想を膨らませることが多かったです。小さな状況を思い浮かべて、その状況でこの人はどんな行動を取るだろうか、どんなことを話すだろうか、と常に想像していました。そういう空想を病的なまでに繰り返している子どもでした(笑)。誰かを見てインスピレーションを受けるというよりは、空想や想像を頭の中で広げていく作業です。頭の中に今まで釣った魚を入れてある釣り堀があって、キャラクターや設定、セリフを考えている時に、『この間の魚を、いやこっちの魚が』と、釣るような感じで映画やドラマを作っていきます。

イ・ビョンホン作品の特徴は、笑いと涙と共感を同時体験できるということ
イ・ビョンホン作品の特徴は、笑いと涙と共感を同時体験できるということ[c]New York Asian Film Festival 2023

キャラクター設定にとても多くの時間をかけます。物語の内容を決めて主人公を設定したら、彼らの周囲にいる人々を配置していきます。すべてのキャラクターを配置してみて、彼らに“足りないもの”を考えていきます。人間の欠けている部分におもしろさがあるからです。セリフは、修正作業を何度も繰り返します。自分で声に出してセリフを読んでみて、削ったり足したり、ずっとやっているんです。初稿からずっと、永遠に修正作業をしています(笑)。でも、本当は細部よりも全体的なリズムが最も大切だと思っていますが」

ハリウッドで起きているストライキ、「とっても対岸の火事ではない」

『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』がNYアジアン映画祭で北米プレミアを行った7月17日には、マンハッタンの各所で全米脚本家組合(WGA)と映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが行われていた。イ・ビョンホン監督は、「とても注目しています。映画を作る者として当然だと思います」と、ハリウッドが抱える問題は韓国の映画業界にとっても対岸の火事ではないと話す。

「韓国の映画製作システムは、どんどんハリウッドのシステムに近づいているからです。現在ハリウッドで起きていることは、遅かれ早かれ韓国でも起きうることです。パンデミック以降、韓国の映画市場は活況を取り戻せていません。観客動員数が落ち、映画制作本数も減っています。この状況を踏まえると、韓国の映画産業もハリウッドのように大手スタジオによるシステムに近づいていくだろうと思います。ハリウッドの状況を注視しながら、停滞する韓国映画産業も、この過渡期を乗り越える必要があります。将来的には、脚本家の間で組合も作られるようになるでしょう。現在、ドラマなどテレビの脚本家組合はありますが、映画の脚本家組合はまだ形成されていないと思います。そして、現時点ではストライキという概念もありません。でも、脚本家は賃上げとレジデュアル(二次使用料)の交渉、その他様々な権利の主張をしていくべきだと思います。

子どもの頃から、頭の中で空想を膨らませることが多かったというイ・ビョンホン監督
子どもの頃から、頭の中で空想を膨らませることが多かったというイ・ビョンホン監督


同じく争点になっているAIについては、まださすがに懐疑的です。機械がある職業ととって替わるという懸念は随分と昔からありましたが、脚本に必要とされているようなニュアンスを汲み取ることをAIができるのかな、と考えてしまいます。でも、映画制作ビジネスにおいて、AIにしかできない役割もあるんじゃないかとも思います。AIを排除することはできないだろうから、人間がAIにある程度の役割を持たせ、人間とAIが共同作業するということは起き得るでしょう。いまの私にできることは、自分の仕事に邁進するのみです。もしかしたら、私がAIのアシスタントライターになっているかもしれませんね(笑)」

AIと脚本家の協働は、現在イ・ビョンホン監督が興味を抱いているという“異種共存社会”にも通じる概念だ。多忙を極める彼だが、そのうち新しい作品で“人間味のある”共存社会を見せてくれることだろう。

「パンデミックとその後のコロナと共存する世界によって、考え方がとても変わりました。特に、パンデミックのような大きな環境の変化を受けて、今の生活を異なる形に置き換えることはできるのだろうかと考えます。例えば、ゾンビの存在もある意味疫病といえますよね。では、ゾンビと人間は共存できるのか、といったような。終末期の世界で、ゾンビと人間が家族のように一緒に暮らすコメディを想像したりしています」

取材・文/平井伊都子

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