小島秀夫がHBOドラマ「THE LAST OF US」を徹底分析!「ゲームIPを映像化で最大限表現しきった、奇跡のような作品」

インタビュー

小島秀夫がHBOドラマ「THE LAST OF US」を徹底分析!「ゲームIPを映像化で最大限表現しきった、奇跡のような作品」

2013年にPlayStation3⽤ソフトとして発売されたゲーム史に残る傑作「The Last of Us」を、「チェルノブイリ」などで知られるクレイグ・メイジンが、HBOで巨⼤な製作費をかけて実写ドラマ化。寄生菌が地球全体に蔓延し、多くの人間が凶暴な”感染者”となり荒廃した世界を舞台に、娘を失った中年男性・ジョエル(ペドロ・パスカル)と寄生菌の抗体を持つ10代の少⼥・エリー(ベラ・ラムジー)が出会い、絆を育みながら過酷なサバイバルへと⾝を投じていく。

この世界的大ヒットとなった「THE LAST OF US <シーズン1>」のパッケージ発売を記念して、ゲームクリエイターの小島秀夫にインタビューを敢行。「THE LAST OF US」映像化成功の秘訣から、大ファンだと語るペドロ・パスカルの魅力、そして近年注目度が高まってきている“ゲームIPの映像化”についてまでたっぷりと語ってもらった。

ゲームクリエイター・小島秀夫が「THE LAST OF US」を解説!本作の優れたプロデュースとは?
ゲームクリエイター・小島秀夫が「THE LAST OF US」を解説!本作の優れたプロデュースとは?

「世界的ゲームIPを映像化するうえで押さえておくべき点が、完璧に描かれていた」

世界的大ヒットとなったHBOのドラマ「THE LAST OF US」
世界的大ヒットとなったHBOのドラマ「THE LAST OF US」[c] 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO[R] and related channels and service marks are the property of Home BoxOffice, Inc. [c] 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

――本作は「理想的なビデオゲームの映像化作品」と評されていますが、なぜここまでの反響を得ることができたのか、率直なご意見をお伺いしたいです。

「映画ではなく、HBOでテレビドラマとして製作することにしたのが大正解でしたね。2時間ちょっとで本作の物語を描ききるのは難しいし、映画だと見せ場を増やすために、物語とは関係のないシーンがどんどん付け足されたりして、全然違う作品になってしまう可能性もあります。そこをクレイグ・メイジンさんやニール・ドラックマンさんがショーランナー(製作総指揮者。コンセプトやストーリーの骨格など、ドラマ製作を統括する)として、巧みに道筋をつけていったことが成功の秘訣だったのではないでしょうか。ゲーム業界的にも、ゲーム版のクリエイティブディレクターや脚本を手掛けていたニールさんが参加していることは話題として大きかったですね。今後こういう事例が増えてくると思います」

――全9話からなるシーズン1をご覧になられて、特に印象に残っているシーンや演出を教えてください。

「第1話冒頭にあった寄生菌に関する討論会をするところですね。ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』のオマージュのようなシーンで、ゲーム版にはない場面ですが、作中で起こるパンデミックの原因を端的に説明している手法が印象的でした。最近のドラマや映画では冒頭に派手なシーンを見せて興味を引いて、説明的な部分は数秒でさらっと流してしまう演出が多いんですが、説明部分をしっかり見せることで、作中で起きる出来事にリアリティを持たせているのが『よくわかっているな』と思いました」

――寄生菌の存在をしっかり解説しているので、作中に登場する“感染者"の存在にもリアリティがありますよね。

「本作で主人公たちを襲うのはゾンビではなく、寄生菌の感染者たちですからね。その設定に違和感を感じさせず『この世界ならそうなるか…』と納得できるように仕上げているのが上手いですね」

寄生菌に感染すると、グロテスクな姿へと変貌してしまう(写真は第2話「感染」より)
寄生菌に感染すると、グロテスクな姿へと変貌してしまう(写真は第2話「感染」より)[c] 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO[R] and related channels and service marks are the property of Home BoxOffice, Inc. [c] 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

――本作は高い技術を駆使した美麗な映像も魅力の一つですが、小島さんがシーズン1を観て感じたことを教えてください。

「『The Last of Us』といえば“春夏秋冬"それぞれの季節を描いた演出も高く評価されているポイントなんですが、ドラマでもそれを再現している。特に終盤にかけての冬の場面には目を見張るものがありましたね」

ゲーム版を完全再現したビジュアルも本作の魅力(写真は第2話「感染」より)
ゲーム版を完全再現したビジュアルも本作の魅力(写真は第2話「感染」より)[c] 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO[R] and related channels and service marks are the property of Home BoxOffice, Inc. [c] 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

――夏から始まり春で終わる物語でしたね。季節の移り変わりが場面の転換だけでなく、登場人物たちの心情に寄与しているのも魅力でした。この美麗な映像を作り出している撮影や美術、VFXにおいて、これはすごい!と思われたところはありますでしょうか。

具体的な箇所ですと、2話で避難する人々が集まっている建物に感染者の群れが迫ってくるところを真上から映すシーンが良かったですね。『マッドマックス2』の冒頭にも似たような演出があるんですけど、こういうシーンだと、普通はどんどんカメラが寄っていく手法を取りがちなんですよ。でも本作では、感染者に寄らずにずっと一定の距離のままで映し出していることで緊張感を維持し続けているのがすごいなと思いました。あと9話に登場するキリンは、CGではなく本物のキリンを撮影していると後に知って、とても驚きました」

――本作の3話は、特に“神回”と呼ばれて人気を博していました。HBOでの視聴者数もそこから急激に増加した回となりましたが、小島さんのご感想をお聞かせいただけますでしょうか。

「3話に関しては、唐突に主人公たちと異なる視点に切り替えることで世界観の広さを表現するという、テレビドラマで特によくみられる演出手法が使われていたのが印象的でしたね。本作では、1話はクレイグさん、2話はニールさんが監督を務めていますが、この2話までで『The Last of Us』という世界的ゲームIPを映像化するうえで押さえておかないといけない、ゲームファンが期待するであろう要素が完璧に描かれていました。

屈指の神回として、ゲームファンだけでなく海外ドラマファンも熱狂させた第3話「長い間」
屈指の神回として、ゲームファンだけでなく海外ドラマファンも熱狂させた第3話「長い間」[c] 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO[R] and related channels and service marks are the property of Home BoxOffice, Inc. [c] 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

そして、以降のエピソードでは『ボーダー 二つの世界』や『聖地には蜘蛛が巣を張る』のアリ・アッバシ監督や、『サラエボの花』や『アイダよ、何処へ?』のヤスミラ・ジュバニッチ監督など、渋くて力のある監督が演出を務めている。それぞれの監督が独自の色を出しつつも、あくまで『The Last of Us』の世界観に沿った、クレイグさんとニールさんのクリエイティブの元に成立しているものになっていました。だから、第3話のような独自の展開や構成も、すべてクレイグさんたちの計算のうちだったと思いますし、そういった演出ができる監督たちを連れてきたクレイグさんの手腕は流石だと思いましたね」

ゲーム版の名シーンの数々が、ドラマ版で再現されている(画像はPS5ソフト「The Last of Us Part I」より)
ゲーム版の名シーンの数々が、ドラマ版で再現されている(画像はPS5ソフト「The Last of Us Part I」より)[c]2022 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog LLC. The Last of Us is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.


●「THE LAST OF US <シーズン1>」
デジタルレンタル中/4K UHD、ブルーレイ好評発売中/DVDレンタル中 
ラインナップ:ブルーレイコンプリート・ボックス 1万3000円(税込) / 4K ULTRA HDコンプリート・ボックス 1万7000円(税込) ※初回限定生産 スチールブック仕様
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

詳細は「THE LAST OF US <シーズン1>」ワーナー公式ページをご確認ください

●小島秀夫
1963年、東京都生まれ。ゲームクリエイター、株式会社コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた「メタルギア」で、ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開く。ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。独立後初作品となる「DEATH STRANDING」ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥ、マーガレット・クアリーなど、世界的名優たちを起用。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンタテインメントへも、創作領域を広げている。

THE LAST OF US [C] 2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO[R] and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. [C]2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
[C]2022 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog LLC. The Last of Us is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.
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