小島秀夫がHBOドラマ「THE LAST OF US」を徹底分析!「ゲームIPを映像化で最大限表現しきった、奇跡のような作品」
「普段ゲームをしない人にも作品の魅力や物語を伝えられることが、ゲームIPの映像化で重要なねらい」
――本作をはじめとするゲームIPの映像化が、近年注目されていると思いますが、小島さんのご意見をお聞きしたいです。
「ゲームIPの映画化は昔から行われてきましたが、いろいろな創り手の人たちが『こうしたほうがもっとウケる!』と、設定を大幅に変えてしまうといったように大胆なチャレンジをした結果、従来のファンにも受け入れてもらえず興行的に失敗してしまった例はいくつもあると思います。近年ではその反省を活かしてか、『皆がゲームでプレイしたあのシーンを、映画でも忠実に再現しよう』という風潮になってきているように感じます。
でもそれは、もともとゲームが『あの映画のようなワンシーンを自分で操作できたら、きっとおもしろいよね』という発想から作り出されているのに、それをまた実写などの手法で映像化し直していることになるので、エンタメ作品として考えたときに本当にそれでいいのかな、という疑問も生じると思うんです。でも、映画とゲーム、どちらから入ってもしっかりと作品そのものを楽しめるのは良いことだと思いますし、それも今後新しいスタイルとしてユーザーに受け入れられていくのだろうと思います。特に今回の『THE LAST OF US』に関しては、ニールさんたちがしっかりと舵取りをしているからこそ、こうしたスタイルが実現できたんでしょうね」
――ドラマ版で作品を知り、ゲーム版もプレイしてみよう…と考える人は多いようで、アメリカではドラマの放送後、ゲームの売り上げも大きく伸びたそうです。
「ゲームIPの映像化の重要なねらいはそこですからね。普段ゲームをしない人や、そのタイトルに触れてこなかった人にこそ、作品の魅力、物語を伝えたいという。正直な話、ゲームをプレイすることってなかなか大変なんですよ。例えばアクションゲームのようなジャンルだと、操作が難しくて先に進めなかったり、何回やってもクリアできないから、途中で諦めてしまった経験がある人もいると思います。そういった方たちにも楽しんでもらえるように、ノベライズやコミカライズといった手法を取ることも多いです。この観点から見ると『The Last of Us』のドラマ化は最高の成功例だといえるでしょうね。
今後のゲームIPの映像化のなかでは、個人的にはニール・ブロムカンプ監督の『グランツーリスモ』が新しい切り口だなと思って注目しています。ゲームのプレイヤーだった若者が、実際にプロのレーシングカードライバーになるまでを描くという実話を基にしたストーリーだそうで、こういった形でゲームと映画をリンクさせるのは、おもしろい手法だなと感心しました」
――小島さんが手掛けられたゲームを映画化し監督を務めるとしたら、「このような展開にしたい」というプランなどはありますか。
「現在発表されている映画版『デス・ストランディング』には、プロデューサーという立場で携わっており、監督というポジションではありません。自分で考えた演出やストーリーは、やはりゲームとして表現したいですね。もし仮に映画で監督を務めるとしたら、ゲームとはまったく関係のない、映画のための企画を立ち上げるところから始めるでしょうね。ただ映画にまで手を出すと、ゲームを作る時間がなくなってしまうので、多分やらないだろうなあ(笑)。
ちなみに『デス・ストランディング』では、こういう展開にすればきっとヒットするだろうなという大掛かりな手法は使わずにいきたいと思っています。成功するかどうかわからない、普通なら絶対に使わないような表現で、ゲーム原作の作品だと分かってもらえるような作風を考えていて、いまはその最適な見せ方を模索しているところです。インディーズ映画寄りといいますか、こういった表現もアリなんじゃないかなとは思っているんですけど、過敏に反応する人も出てきそうなので、公開したときにどのような感想が返ってくるか、いまから楽しみです」
――いろいろと貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。最後に、現在製作中の『THE LAST OF US』シーズン2について、期待していることを教えていただけますでしょうか。
「シーズン2がゲーム版の2作目を踏襲したものになるかが気になります。そのままだと主人公がジョエルでなくなってしまうので、個人的にはやっぱりペドロさんがもっと活躍する姿を観たいです(笑)。あと、今回も個性的な監督の方々が参加されていたように、次作にはどんな方が起用されるかにも注目したいですね。いずれにせよ、『The Last of Us』というIPを映像作品として最大限に表現してゆく、奇跡のようなシリーズとして続いていってほしいと期待しています。」
取材・文/ソムタム田井
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●小島秀夫
1963年、東京都生まれ。ゲームクリエイター、株式会社コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた「メタルギア」で、ステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開く。ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。独立後初作品となる「DEATH STRANDING」ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥ、マーガレット・クアリーなど、世界的名優たちを起用。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンタテインメントへも、創作領域を広げている。
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