「この手があったか!」清水崇監督を唸らせた“王道ホラー”『ブギーマン』の本気の怖さ
「短編を上手に長編へと膨らませたことに、監督の力量を感じる」(清水)
西川「6月に北米で公開された本作ですが、サヴェッジ監督にとっては初のメジャー映画にもかかわらずスマッシュヒットとなりました」
清水「『ブギーマン』は抑えた演出が良かったので、この路線でという期待もありつつ、『アクアマン』のジェームズ・ワン監督のようになるかもしれないとも思うし、次回作はもっと大きい規模で展開していくんじゃないですかね。サヴェッジ監督が自分の巧さをどうキープしていくのか。いろいろと楽しみです」
ナマニク「ホラー以外のジャンルを撮ったらどうなるんだろう?というのはすごく気になります。『Dawn Of The Deaf』という短編、観ましたか?」
西川「聴覚障害者たちを主人公としたゾンビ映画ですよね。サヴェッジ監督の過去作の短編にはドラマ作品もあったりしますし、人間ドラマの演出力もあると思っています」
清水「ホラー以外のジャンルにも興味があるのかな?」
西川「ショートストーリー仕立てのミュージックビデオで全編スローモーション、背景をほぼ真っ暗にするみたいなものをすごくドラマティックに撮っているのもあって。長編作品はまだ少ないけれど、短編はさまざまなジャンルでかなりの数を撮っている監督です」
野水「いろいろなことができる監督はアメコミヒーロー映画に抜擢されがちなので、今後なにかあるんじゃないかなと思いますよね」
西川「ちなみに『ブギーマン』は原作となるキングの短編がありますが、清水監督は公開中の『ミンナのウタ』も含め、オリジナルのホラーを数多く手掛けられていますよね」
清水「僕はオリジナルのほうが作りやすいですし、監督としてはオリジナルの方がモチベーションは上がると思います。ただ、『ブギーマン』は短編を上手に長編へと膨らませてみせたことがすごく大きい。大変だったとは思うけれど力量はしっかりアピールできたと感じています」
西川「清水監督は、以前サヴェッジ監督とお話されたことがあると伺いましたが、なにやら事件があったとか…」
清水「事件ということでもないんですが(笑)。『樹海村』が公開する際に、ちょうど日本でサヴェッジ監督のデビュー作『ズーム/見えない参加者』が同じタイミングでの公開だったので、お互いの作品を観てリモート対談するという企画に参加しました。当日にスタッフがヒアリングしてわかったんですが、サヴェッジ監督は多忙だったのか、対談時点でまだ『樹海村』を観ていなかったんですよね。失礼な話ではありますが、僕は根に持つタイプでもないので忘れていたくらいです。『ブギーマン』を観たあとにスタッフに指摘されて、『ああ、あの小生意気な若造か』と(笑)。こんなにオーソドックスな、正統派の作品を撮れるようになったなんて、成長したなと感心しました」
西川「ここまで立派になって…という感慨があったんですね。サヴェッジ監督は『たたり』や『回転』が好きだと発言していたので、原点はオーソドックスなものなのかもしれません」
清水「あの2本はやはり原点なんですよね。“Jホラー”を作った監督たち、黒沢清さん、鶴田法男さん、高橋洋さんなどもやはりそうですし、僕にとってもそうです」
西川「“見せない怖さ”みたいなものがありますね」