「この手があったか!」清水崇監督を唸らせた“王道ホラー”『ブギーマン』の本気の怖さ
「怖がっている人の姿を見せる、という演出は滅茶苦茶怖かった…」(ナマニク)
西川「サヴェッジ監督の恐怖演出について、印象に残っているシーンはどのあたりでしょうか?」
清水「同じ作り手として、画面に出てきた瞬間に『巧いな』と思ったのはライトボールの使い方!」
西川「ポスターにも写っている、妹のソーヤーが抱えている丸い灯りですね。月をデザインしたコードレスのライトです」
清水「怖がりな妹はライトボールをベッドに持ち込んでいるんですが、ほどほどの暗さと明るさが出せるので、あれは演出上めちゃくちゃ便利です。『この手があったか!』と唸りました。通常のライティングでは、光源が動くのは不自然です。しかし、彼女がベッドからライトボールを落とすと、転がっていってベッドの下にも光を当てることができる。すごく巧い手法だし、日本でも真似する監督や照明技師が増えると思います」
ナマニク「観客は転がるライトボールを目で追ってしまいますよね。転がった時になにが映るのかと想像させるのがおもしろかったです」
野水「私はブギーマンが人間の声を真似してくるところもすごく怖くて。聞き慣れた声だと人って油断して返事してしまうもの。こういう存在が人に倣うというのは伝承などでも言われていることなので、民俗学的な視点から考えてもおもしろいと思いました」
ナマニク「僕は、なにかは分からないけれど“いる”と定義されているブギーマンという存在がすごく好きで。不安の象徴なのか単なる悪意なのか、様々な受け取り方ができるのもよかったです。怖いものを見せるのではなく、怖がっている人の姿を見せるという演出もすごく巧いと思いました。あるものを見た時のお姉ちゃんが感じた恐怖を、絶叫している口元で見せるシーンなんか、めちゃくちゃ怖かったです」
野水「改めていろいろなことができる監督だなって気付かされますね」
「過度な表現もなく、怖がりたいという人にはうってつけの映画です」(清水)
西川「では、『ブギーマン』に興味を持たれた方に対して、おすすめしたいポイントを伺っていきたいと思います」
ナマニク「僕のようにホラーばかり観ている方は、タイトルだけで斜に構えてしまうかもしれません。でも、絶対楽しめると思うので、素直に怖がって楽しんでください(笑)」
野水「子どもの頃から、暗がりが怖いという人は多かったと思います。大人になって忘れていたはずなのに、改めてそういうところが怖いと感じてしまう原点回帰のような作品です。家に帰ったら絶対クローゼットを閉めようと思ったのは子どもの頃以来でした!」
清水「試写をホラー耐性のない役者さんと一緒に拝見したのですが、観終わった途端にドッと疲れが出たと言っていました。過度な表現はないので、血が苦手、ホラーが苦手という方でも終始心地よい緊張感のなかで楽しんでいただけると思います。怖がりたいという人にはうってつけの映画です」
西川「ありがとうございます。僕がこの作品から感じたのは、怖い映画でありつつも基本的には家族の話であるということです。お母さんを亡くした家族がどうやって現実と向き合っていくのかという話なので、ホラー要素を取り除いても成り立つんじゃないかなと、映画を観終わってすぐに思いました。物語としてとてもおもしろいので、普段ホラーを観ない方にとっても、なにか新しい扉が開く気がしています」
取材・文/タナカシノブ