3DCG版「クレヨンしんちゃん」はどのように作られた?完成まで7年の道のりを大公開
キーワードは「ツヤツヤもちもちカラフル」
「シンエイさんからは常々、2D作品との差別化ということと、3Dの良いところを取り入れて欲しいと言われていましたので、白組の社内では『ツヤツヤもちもちカラフル』というキーワードを指針にしていました」と、畑中は続ける。
“ツヤツヤ”は光の反射など、2Dや手書きの作品とテイストの違った、3D特有の部分。“もちもち”はしんちゃんや子どもたちの頬の柔らかくて優しい質感とアニメーション。そして“カラフル”は3D映えするカラフルなトーンのこと。
畑中は「しんちゃんをしんちゃんらしく、造形を成立させる。ちゃんと3Dで作っている部分と、嘘をついてしんちゃんらしさを表現している部分がいろいろあります」と、3DCG化の作業過程で特に苦労した部分の詳細を教えてくれた。
「造形はちゃんと“ボコ”(=子どもキャラクターの顔に見られる、顔の下半分が大きく丸みを帯びて飛びだしている部分)を作っているのですが、これを3D上で作ると当然ですが光が当たるところと影になるところが出てきて造形がわかってしまう。本来は“こういう形になっています”とわかってもらうために光と影で形を表現しますが、しんちゃんは2D作品のイメージがある。それを損なわないように形を作り、表現的な嘘を混ぜながらキャラクター性を保っていきました」。
3DCGでの見どころはキャラクターだけではない。本作では背景も手描きではなく、それぞれのシーンを3DCGで起こしている。「CGの場合、実写と同じで一度しか出ないシーンでもセットを全部作るんです」と明かす畑中。大根監督とディスカッションを重ねながら本当に必要なシーンを選んでいき、同時に作品のクオリティを担保することを常に意識して作業を進めていったという。
2D版のアニメでおなじみの野原家も、もちろん3DCGで登場。シーンごとにキャラクターがどう動き、どのような芝居をするかなど細かい演出が行われていった。「大根監督とのやり取りで気を付けたのは、アニメもCGも一緒なのですが、前の工程に戻ることが結構大変だというところです。2Dのアニメだと色をつけていく段階で動きを直したいと言われても戻るのが大変なのですが、それはCGでも同じなんです」。
もう一つ労力がかけられたのは、本作の見せ場でもある“超能力”の描写だ。「超能力エフェクトは、その体の動き、アニメーションが固まった後じゃないと、本番の作業ができなかった。超能力エフェクトを制作する時も、アニメーションをちょっと直したいと言われてしまうと困るので、流れを事前にちゃんと説明をさせていただいて、最終確認を丁寧に心掛けました」。
3DCGのプロフェッショナル集団である白組と、畑違いであるアニメの現場にもリスペクトを込めて作品に向き合った大根監督の共同作業によって完成した、「クレヨンしんちゃん」の3DCG化。いったいどんな出来映えになっているのかは、ぜひスクリーンで確かめてほしい。
文/久保田 和馬