ダイアナ元妃が語り継がれるプリンセスである理由は“不幸な美しさ”?チャールズ国王の後輩、ハリー杉山が語る英国の王室事情
「家族に対する強い想いは、イギリス人特有の感情かもしれないです」
また劇中で、すさまじい狂気を感じたのが、ダイアナがディナーの席でネックレスをひきちぎり、スープの中に落ちた大粒のパールを、次から次へと口へ運び飲み込んでいくシーンだと語る。
「あれは、前代未聞の演出でした。しかもグリーンウッドがそこにも音楽を入れているから、なおさら気持ち悪いシーンになっていたし、ダイアナ元妃がそこから逃げ出すシーンも、まるでホラー映画のようでした」。
杉山は「イギリスで育つと、英国王室に関しては必然と詳しくなります」と言う。「毎日入ってくる王室のニュースについては、近所のマダムたちともよく話しました。日本でも皇室について報道されますが、イギリスでは王室事情が時には容赦なく生々しく報じられるので、常に一般市民の注目の的になっています」と、日本の皇室との違いを語る。
劇中では、ダイアナ元妃の生家、スペンサー家が、ヘンリー8世の妻だったアン・ブーリンとゆかりがあるとされ、彼女がヘンリー8世から離婚され、のちに処刑されたことも紹介される。「その歴史は学校で勉強するので、イギリス人なら誰もが知っています。劇中ではサンドリンガム・ハウス内の装飾としてヘンリー8世のドでかい肖像画が登場しますが、やっぱり国王の王権というのは、圧倒的な“権力”なんだなと改めて感じました」。
母親として子どもたちに愛を注ぐダイアナの表情も印象深い。「ダイアナは、狂気の悪循環にどっぷりハマっていく一方で、絶対にブレなかったのが、彼女の子どもたちに向ける愛情でした」。本作のなかでは、ダイアナと幼いウィリアム王子とヘンリー王子の絆深いシーンが描かれているほか、冒頭では、故郷の地でかつて父親が着ていたボロボロになったジャケットを見つけ、持って帰ろうとするダイアナの姿も映しだされる。「そもそも彼女は家族をものすごく大切にしていたから、カカシが着ていたお父さんのジャケットに思いを馳せたんだと思います」。
ダイアナ元妃について「本当に切ないです」と、彼女の胸中をおもんばかる杉山。
「ダイアナは父親みたいに自分をリードして守ってくれるような頼れる男性と一緒にいたいと思っていたのに、チャールズのような人を選んでしまった。父親の温もりを少しだけでもいいからほしいと思ったから、ジャケットを持ち帰ったのだと思います。そこは、昔の実家がある地元だったので、1人で自問自答をしたのではないかと」。
杉山も全寮制の学校生活や海外生活が長かった分、ホームシックになった経験があるそうだ。ダイアナが廃墟となった自分の生家に戻るシーンについて、「僕自身も去年、父親を亡くしましたが、自分ではなかなか答えが出てこないことについては、自分が育った家に戻り、なにかしらのきっかけを必死で探そうとする行動は理解できます。僕もイギリスの実家の家具をいま住んでいる部屋に置いていて、先祖の魂を感じながら、日々過ごしています。父親の結婚指輪も身に着けていますし、家族代々受け継がれてきた数百年前の本や、曽祖父、親父の肖像画を飾っているので。家族という存在に対する強い想い。それはイギリス人特有の感情かもしれないです」。